星のひとみ

#156 この素晴らしき世界

ある芸術家が「美しいものはもうすでに世界にじゅうぶん存在している」といいました。またある音楽家は「自分の理想とする美しさをある画家の絵の中に見つけた」といいました ──

Moi!フィンランドをもっと好きになる156回目のレポートをお届けします。メニューはこちら。


トペリウス『星のひとみ』とそのまなざし

最初の報告は自分から。フィンランドのアンデルセンとも呼ばれるトペリウスの『星のひとみ』(万沢まき訳/岩波少年文庫)という童話集を読みました。原書は “Läsning För Barn” (1865)、スウェーデン語で書かれています。

童話や昔話など子どもたちの本にはとりわけその土地や時代が反映されているように思います。自然描写や情緒、思考回路など、トペリウスを読みながら、自分も日本の童話に強く(無意識に)影響を受けているにちがいないと思いました。

神学も学んでいたというトペリウス。それぞれのお話にはキリストだけでなく、北欧神話や民話の神さま、アミニズム的な自然の中の神さまなど、さまざまな神さまが登場します。そうしたところにも他のヨーロッパの国々とは異なるフィンランドらしさが表れているように感じました。

ミホコさんによるとフィンランドの人たちにとってトペリウスの話はすこし説教くさく感じるところがあるそうです。あとがきにも「お話をとおして、フィンランド人の国を愛する心を強くしたい」という願いをトペリウスは持っていたと書かれています。

星のひとみ

『星のひとみ』を読んで自分が感じたのは、トペリウスの子どもたちに対する優しいまなざし、素直な心を失わないようにという願いでした(サーミの人々に対する偏見についてはちょっと気になりましたが)。おすすめの一冊です。

ミ:フィンランドで書物が出始めた頃ですね。昔話というと作者不詳のものが多いですが、トペリウスであると作者がわかっているお話であるところが新しかったのかもしれません。
イ:教訓めいたところがあるかもしれませんが、本が書かれた当初の時代背景などがわかっているとまたおもしろいですよね。


ロヒケイットとディルのこと

もうひとつ自分から。昨晩ロヒケイット(フィンランドのサーモンスープ)を作りました。そのきっかけは、ロヒケイットがレシピサイト《北欧のおやつとごはん》に掲載されたことをツイートしたところ「お試しくださいね!」と返信をいただいたため、これは作らなければ〜と思ったのでした。

以前フィンランドの乳製品メーカー「Valio」のレシピを参考にして作ったことがありました。その時との違いは、玉ねぎをみじん切りにすること。そして鮭を入れたら沸騰する前に火を止め、余熱で火を通すこと。そうすることで煮崩れしません。

サーモンスープ
(ディルを散らす前に写真を撮ってしまいました)

「ミホコさんは普段フィンランド料理つくりますか?」という岩間さんの質問に「日本にいるときは日本の料理ですね、笑」とミホコさん。自分もこの配信がなければフィンランドの料理を作ることはなかったと思います。これまで挑戦したのが、シナモンロール、ムンッキ、ラスキアイスプッラ、ルーネベリタルト、クリスマスパイ、オープンサンドイッチ、ピュッティパンヌ、ポルッカナラーティッコ、ビーツのスープなどなど、とてもよい経験になりました。

ミ:鮭の切り身って普通にありますか?
ハ:はい、近所のスーパーに。でもそのお店、ディルの取り扱いがなくなってしまって、遠くまで、笑。
イ:お店をやっている時にもディルを欠かさないようにしてましたね。吉祥寺は飲食店が多いので店頭にはなくても尋ねると出してくれることもあったり。
ミ:ディルの代わりになるハーブってありませんかね、セロリの茎とか。
イ:聴いている人みなさん、ディルじゃないと!って言ってるはずですよ、笑。


フィンランドって何語ですか

次はミホコさんの報告です。ミホコさんがよくランチに行くお店へたまたま一人で行ったところ、お店の方から「ところでフィンランドって何語ですか?」という質問があったそうです。そこで「フィンランドのいろはの”い”をお話しすることになりました」とミホコさん。

ミ:素朴な疑問には答えないとね。
イ:お店(moi)でもよく聞かれましたよ、笑。
ミ:さらにスウェーデン語も公用語で‥‥といった話をすると、歴史まで話さなくちゃいけなくなります。

そして最近ミホコさんが同僚のフィンランド人たちと話していて困ってしまったのが「フィンランド料理で何が好き?」という質問。ミートボール、ラーティッコ(グラタン)、ロソッリ(根菜のサラダ)‥‥とかかなぁと思い浮かべていると、ミホコさんから驚きの一言。みなさんの好きな日本料理は、、、「餃子」とのこと。

フィンランドって何料理ですか。

今期のフィンランド語講座を終えて、すこしホッとしたところというミホコさん。とはいえ、基礎・入門編と中級編が4月6日から、そして「フィンランド語必須単語持久走1000」の特別クラスが4月27日に対面で行われます。気軽にご参加をとのことですので、トライアルにぜひどうぞ。

▶︎ フィンランド語講座|matkatori

【特別クラス】フィンランド語必須単語持久走1000
 日 時:2024年4月27日(土) 10:30 – 12:30 
 場 所:マトカトリ
 所在地:東京都中央区東日本橋3-9-11-5F
 参加料:3,000円

イ:きっと一年間完走して、フィンランド語がより身近になったでしょうね。
ミ:奥深さも感じていただけたと思います。
イ:初級/中級/上級と段階に合わせて、それぞれの壁もあったり。
ミ:小説を読むクラスでは抽象的な表現をどう読み取るか、とか。
イ:単語ひとつにもそうした表現の違いがあることはおもしろいです。
ミ:一般的な使い方ではなく、その小説家ならではというものもありますね。


書店版『かもめ食堂』?

そして岩間さんが紹介してくれたのは、ファン・ボルム著『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(牧野美加訳・集英社)という一冊。直接フィンランドとは関係ないけれど独立書店版の『かもめ食堂』だなと思ったそうです。

ようこそ、ヒュナム洞書店へ

「あとがきに『かもめ食堂』の名前が出てきて頷きました」と岩間さん。『かもめ食堂』のファンタジーな雰囲気とは異なり、社会的な問題や居場所を求める人々といった、より現実的なスタンスの小説だそうです。「読んでみたいですね」とミホコさん。

そしてレギュラー配信終了に際して「これまではいろいろな方面に《フィン活》の手を伸ばしてきましたが、今後はテーマや軸をもうけていきたい」と岩間さん。「コーヒーからフィンランドをみるとか、ピントを絞ってみようかと」。どんな風景が見られるのでしょうか、乞うご期待!

ミ:ということは、フィンランドにも行かれるということでしょうか!?
イ:今年は無理かもしれないけれど。
ミ:ぜひリサーチも兼ねて!


フィンランドの映画賞「ユッシ賞」

最後に岩間さんが「ユカさん、今週の《フィン活》は?」と、聞きにきてくれていたユカさんを招き入れました。「えっと、昨日の『ユッシ賞』のことはもう話しました?」

今回のユッシ賞では、昨年ユーロスペースで開催された「フィンランド映画祭」でユカさん一推しだった『Mummola|ファミリータイム』が、年間作品賞、監督賞、脚本賞と3部門を獲得。

『枯れ葉』でも主演を務めたアルマ・ポウスティが『Neljä pientä aikuista|4人の小さな大人たち』で主演俳優賞を受賞。自分が日本語タイトルを補足したところ、フィンランド語のタイトルしか思い浮かばなかったとユカさん。

自分は『Tytöt tytöt tytöt|ガール・ピクチャー』でも印象的だったリンネア・レイノ主演の『Lapua 1976』が気になりました。こちらは観客賞に選ばれています。

イ:『ファミリータイム』はコメディ?
ユ:コメディ的ではありますね、ブラックなユーモアも。
イ:日本でも公開されるといいですね。
ユ:あと『SISU』もメイクアップデザイン賞を、笑。
イ:あの斧持ってるやつだよね。
ユ:はい、ツルハシの。痛いシーンは目を半分にして。
ハ:いまアマゾンプライムで観られるみたいです。


お知らせ:青空の下で会いましょう

お知らせを3つ。

① 3月30日に予定していた【フーさんから日本の子どもたちへ 2024】の開催が、諸事情により中止となりました。楽しみにしてくださっていた方々には大変申し訳ありません。日をあらためて開催することになると思いますので、どうぞよろしくお願いします。

② Moiのロゴを描いてくれた大平高之さんの作品展【花曇り】が、谷中のpáseleというお店で開催中です(4月20日まで。営業時間などはInstagram|@pasele.yanakaでご確認ください)。春分の日の会場で大平さんと久しぶりにお会いすることができました。大平さんの存在もMoiにとってとても重要な要素だとおもっています。

③ Blueskyアカウントをつくりました。もしかすると今後こちらがメインになるかなと思いつつ。

Moiのアカウント
moicafecom.bsky.social

岩間さんのアカウント
moikahvila.bsky.social

Moiのアカウントでは、このレポートの代わりに近況をつたえるような感じでぽつぽつとやっていこうかと思っています。イメージとしては、モイのことが好きなひとたちが集まるお店の無口な雇われ主人のような? 気の向いたときに様子を見にきてくれるとうれしいです。


── なによりたいせつなのは美しいと感じる心なのだとおもう。他の誰かは関係なく、自分の目を開いて、自分の耳をすまして。その心はいまもあなたの胸のずっと奥で待っている。きっと世界は美しく素晴らしい。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。

text : harada

#156|What A Wonderful World – The Innocence Mission