#154 静けさのなかで

近所の公園を歩いていると大木が倒れていた ──

Moi!フィンランドをもっと好きになる154回目のレポートをお届けします。メニューはこちら。


フィンランドとの最初の出会いは?

レギュラー配信は今月までということで、個人的に総集編をお届けしています。

そもそもフィンランドとの最初の出会いはなにかといえば、答えは moi です。今でも「フィンランド」をイメージするとき、moi の店内の雰囲気が思い浮かびます。とはいえ、最初にお店に行ったときにはフィンランドや北欧をコンセプトとしたカフェという認識はありませんでした。そういう意味であらためて考えると、最初の出会いはムーミンをはじめとするトーベ・ヤンソンの小説といえるかもしれません。

先日『すばる 2月号』に掲載されていた管啓次郎と堀江敏幸の対談を読んでいたところ、冨原眞弓の『ミンネのかけら』について話している場面がありました。これは読んでみなければと思い、図書館で見つけました。そこでパラパラとページをめくっているうちに、すでに一度読んでいたことに気づきました。さらにこの配信でも一度紹介していたのでした、、、(#122

そこで冨原さんの他の本を探していると『ムーミンを生んだ美術家 トーヴェ・ヤンソン』(新潮社/❶)がありました。その隣に並んでいたのが、

❷ ボエル・ヴェスティン『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』
 (畑中麻紀・森下圭子訳/フィルムアート社/2014年)
❸ トゥーラ・カルヤライネン『ムーミンの生みの親 トーベ・ヤンソン』
 (セルボ貴子・五十嵐淳訳/河出書房新社/2014年)
❹ ポール・グラヴェット『ムーミンとトーベ・ヤンソン 自由を愛した芸術家、その仕事と人生』
 (森下圭子監訳/安江幸子訳/河出書房新社/2022年)

それぞれ日本、フィンランド、スウェーデン、イギリスの著者による本。これは比べてみるのもおもしろいと思い、4冊まとめて読んでみることにしました(❷と❸は既読)。

まずは❹から。ポール・グラヴェットさんは、ロンドン在住のコミックス批評家。ムーミン・コミックスがロンドンの夕刊紙『イヴニング・ニュース』から始まったと思うとおもしろい偶然かもしれません。発行が2022年と後発なので、トーヴェについてコンパクトに上手くまとめられています。

次は❸。トゥーラ・カルヤライネンさんは、ヘルシンキ市立美術館やヘルシンキ現代美術館の元館長で、トーヴェ生誕100周年の回顧展のキュレーターを務めました。カラー図版が充実していて、なにより読みやすく工夫された本だと思います。内容的にもトーヴェ・ヤンソンを知るのには充分。

そして❷。ボエル・ヴェスティンさんは、ストックホルム大学名誉教授。2019年に開催された「トーヴェ・ヤンソンと日本の影響力」というカンファレンスで講義を聴講したことがあります。トーヴェ・ヤンソン研究の第一人者とされるだけあり、600ページ超という充実の一冊。もっとトーヴェを知りたい方へ。

最後に❶を。レイアウトが凝っているので楽しい(ちょっと読みずらいところも、笑)。ムーミン小説の初版の表紙、母シグネのデザインした切手、弟ペル・ウロフのインタビュー、トーヴェと冨原さんとのエピソードなども載っていて侮れません。冨原さんならではの文章が感じられます。

イ:どの順番で読むといいですか?
ハ:❹ → ❸ → ❷と読んでいくといいと思います。

配信後、ミホコさんから『ユリイカ』の特集もおすすめと教えてもらいました。近隣の図書館にはなかったので、どこかで見かけたらご一報ください。

・1998年4月号「トーベ・ヤンソンとムーミンの世界」
・2014年8月号「ムーミンとトーベ・ヤンソン」


マリア・ウォルフラム 〜 国際女性デーのアートレクチャー

もうひとつ自分の報告。3月8日の国際女性デーに開催されたアートレクチャー「マリア・ウォルフラム」をオンラインで視聴しました。講師はもちろんアンナ=マリア所長。

マリア・ウォルフラムさんは元弁護士というキャリアを持つアーティスト。2018年のスウェーデン系フィンランドウィークで来日したこともあるそうです。「個展、グループ展、レジデンスと多作で知られ、その色使いにはヘレン・シェルフベックとの共通点も感じられます」とアンナ=マリア所長。

後半にマリアさんご本人が登場し、インタビューもありました。「どんな姿であったとしても自分自身を愛してください」「対話をするように描くので常に変化していく」「アートは自分にとってコミュニケーションの手段、生きる手段なので引退することは考えられない」「決断するときはゆっくり慎重に、いざ決断したら振り返らない」など印象的な言葉がたくさんありました。そして、マリアさんにとってのゴールは? という質問には「Keep going!」と。

▶︎ Maria Wolfram

イ:元弁護士ということがアーティストとして活動する中で役立ったことなどは話していましたか?
ハ:芸術家たちによる協会の理事などもしていて、交渉するときなどには役立つかもと言っていました。


国際小包とサプライズ

次の報告はミホコさん。フィンランド在住の友人と食事をしたときの話題を教えてくれました。

東京に来るのが久しぶりだというその方から「よくこのスピードの中で生きていけるね、笑」と言われたそうです。「たしかにスピードアップしているところはあるかもしれないけれど、何十年もフィンランドで暮らしているのでフィンランド人化しているのかもしれません」とミホコさん。

またパンデミック以降、「国際小包を受け取る側も通関の手続きが必要になったので、サプライズの贈り物ができなくなってしまったことが残念」とミホコさん。さらにその手続きにはスマートフォンが操作できないといけないとのこと。「便利になるのはいいけれど、それらを使えないひともいるということを忘れてほしくないですね」

ミ:手書き伝票もダメになっていたりしますから。そうそう、今のフィンランドの若者のなかに手書きのサインがなかなかできない人たちがいるんです。
イ:字が書けない?!
ミ:ブロック体は大丈夫ですが筆記体ですね。学校で習わないからか、ペンを上手に持てないという人も。
イ:それは驚きです……。


フィンランド音楽のすすめ 〜 アコーディオン編

最後は岩間さんが最近気になって聴いているアコーディオンによるフィンランド音楽を紹介。タンゴが人気のフィンランドは、アコーディオン大国でもあるそうです。

一枚は、ヤンネ・ヴァルケアヨキ(Janne Valkeajoki)によるジャン=フィリップ・ラモーの作品集。ラモーはフランス・バロックを代表する作曲家。「原曲はチェンバロ(フランスではクラヴサンと呼ばれる)で演奏されるものだけれど、それをアコーディオンで演奏しているところがおもしろい」と岩間さん。こちらのアルバムは、2024年にリリースされたばかり。

そしてもう一枚が、マリア・カラニエミ(Maria Kalaniemi)の『Ahma』というアルバム。彼女は《フィンランド・アコーディオンの女王》とも呼ばれるシベリウス音楽院卒のミュージシャン。「久しぶりに聴いたら、こちらもよかった」と岩間さん。

ミ:アコーディオンの演奏にはスピード感やグルーヴ感のようなものが感じられると思いますが、チェンバロはそれほどありませんよね。
イ:チェンバロは弦を弾いて音を出すので線でなく点ですよね。アコーディオンは音を伸ばすので印象が変わります。(アコーディオン用にアレンジすることは)バッハとかにも多くありますよね。
ハ:アコーディオンといえば、藤井由佳さんというアコーディオン奏者が、ピアニストのティモ・アラコティラ(Timo Alakotila)さんと連名でアルバムを出したばかりです。4月からは日本ツアーも。
イ:ティモ・アラコティラは、マリア・カラニエミとも演奏していたことがありますよ。


フーさんから日本の子どもたちへ 募集開始

3月30日に開催するチャリティートークイベント【フーさんから日本の子どもたちへ 2024】の参加者募集が開始されました。

日 程:2024年3月30日(土)
会 場:Chaco House
最寄駅:西武池袋線 大泉学園駅(徒歩8分)

内 容:トークイベント(3回)/フィンランド関連グッズのバザー
参加費:2,500円
定 員:各回10名

詳細・お申込みは、下記リンクをご覧ください。Moiでも準備のお手伝い、岩間さんは当日コーヒーを淹れます。久しぶりのこの機会をお見逃しなく。 みなさんのご参加をお待ちしています!

▶︎ フーさんから日本の子どもたちへ 2024 トークイベントへの参加募集開始します


── とても立派な木で倒れてしまうなんて想像もしていませんでした。しばらく眺めていると、誰も見ていない真夜中に音も立てずゆっくりと倒れていく姿が目に浮かんできました。いつもがんばっているひとがいる。その笑顔の裏に隠れているものに気づくことはできないかもしれないけれど、いつだって泣いてもいいんだって伝えておきたい。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。

text : harada

#154|Silence – Chris Brain