昨夜から降りつづく雨。街の音がかき消されてとても静かな朝です ──
*
Moi!フィンランドをもっと好きになる133回目の配信レポートをお届けします。メニューはこちら。
クリニカルアートとエンカウンターアート
最初の報告は自分から。フィンランドセンター主催のセミナー「高齢化社会における臨床美術とAI」をオンラインで視聴しました。今回のセミナーは東北福祉大学とフィンランドのラウレア応用科学大学からそれぞれ研究者の方々を迎えての講義でした。
これらふたつの大学の交流は2006年に開催された「仙台フィンランド学術会議」から。ラウレア応用科学大学のハンネレ・ニーニオ上席講師(当時)が臨床美術(クリニカルアート)を参考にして、エンカウンターアート(Kohtaamistaide)の研究を始めました。
日本では人口の10人に1人が80歳以上という統計が先月発表されたばかり。臨床美術では、そのような超高齢化社会において認知症予防やその進行抑制などを目的とし、美術作品の制作を通して自発性・社会性・QOL(Quolity of Life)の向上を目指します。
また臨床美術の人間観は「何ができるかではなく、その人の存在そのものを喜ぶ。そこにいてくれることを感謝する」というもの。そのため数値的な効果測定ではなく、対象者の個別性やそれぞれの持つ物語(Narrative based)を見ていくことが重要だそうです。医療や介護の現場だけでなく、家庭や世界の平和、ひとの在り方として大切なことだと思いました。
ミ:日曜の朝からむずかしい話題ですね、笑
ハ:(うまく説明できないので)あとでもう少しまとめます、笑
ミ:AIはどのように活用するんですか?
ハ:くわしい利用法はあまり話していなかったんですが‥‥(地域格差の是正、モニタリング、個々の症例に特化できるなど)
写真が記憶する物語
そして、今週はふたつの写真展を観にいきました。
まずは、ニコンプラザ東京 THE GALLERY(新宿エルタワー28F)で開催中のミゾタユキさんの写真展【Pastel ~夢をめぐる】。ミゾタさんがフィンランド、ラトビア、エストニアで撮った写真で構成された展覧会。タイトル通り、夢の中にいるような優しい色あいの写真で、まるで物語の一場面を見ているように感じました。
いちばんのお気に入りは光の反射が神秘的な水辺の森の写真。水のゆらめきやそよぐ風、光が踊るような緑の風景がとても不思議でした。そこでミゾタさんにお聞きしたところ、どの写真も何も加工せず撮ったままであるとのこと。今回のテーマに合わせて、額も白い木製のものをあつらえたそうです。
ミゾタさんの写真展は10月23日まで。11月にはニコンプラザ大阪でも開催されます。
もうひとつは、恵比寿のギャラリー工房 親(Kobo CHIKA)で10月15日まで開催されていた【Dialogue With Land|土地との対話】。写真家の千葉奈穂子さん、彫刻家のアンティ・ユロネン(Antti Ylönen)さん、研究者・作家のカイサ・ケラター(Kaisa Kerätär)さんによるグループ「Artistic Team LAAVU」の写真展です。御三方とも日本とフィンランドを行き来しながら作品を発表されています。
千葉さんの写真は、震災後の南相馬を写したシルバープリント。失われた土地に残る記憶とはどのようなものだろうかと思いながら。アンティさんの写真は、フィンランドのJuvaという町のまるで廃墟ような木造の家。扉や窓に落ちる光にいつか自然へ帰っていくことの安心感を。写真と共にサケ・オオカミ・オオライチョウの物語を綴ったカイサさん。そのルーツでもあるサーミの昔話を思い起こさせます。
▶︎ photo-chibanaoko.com(後日、記録映像がアップされる予定もあるそうです)
アルヴァ・アールトの弱点
次の報告は岩間さん。建築家の関本竜太さんが登壇した「北欧アルヴァ・アールトに学ぶこと」というセミナーをYouTubeで視聴しました。これは2022年8月3日に開催されたセミナー(主催:新建ハウジング)のアーカイヴです。
「関本さんはアールトの話をさせたら日本で一番だと思う。アールトのことを知らなくても楽しめる」と岩間さん。どこかに弱点を残せといったアールト、そうした彼の建築について写真をひきながら話してくれる関本さんの解説に、たしかにアールトに惹かれる理由はそこにあると感じたそうです。
「コルビュジエは完璧すぎてそこで暮らすイメージがわかないけれど、アールトは人間らしい息遣いや人肌のようなものが感じられる。建築家にはどこかきれいに納めたいという強迫観念があるけれど、アールトはやすやすとそれらを超えていく。こういう部分はアイノの仕事なのでは?といった話も。ぜひ観てみてください」
ミ:アールトといえば映画『AALTO』と翻訳を担当した書籍『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』記念トークを観ました。ハラダさんも観てましたよね。
ハ:はい、観ました(レポート#131)。
ミ:本が先か映画が先かといったところですが、宣伝の方は初動が大事なのでまずは映画を!と力説されてましたね。
イ:有楽町とか吉祥寺とか行きやすい場所でもやっているので観に行きましょう。
▶︎ 映画『アアルト』公開・書籍『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』刊行記念ライブトーク|YouTube(2023年11月30日までの期間限定公開)
博物館・美術館日記 in Finland
最後はミホコさんの報告です。ミホコさんのInstagramにはなにやらフィンランドの風景が。というわけでいくつか博物館や美術館などの様子を教えてもらいました。
10月16日から改修工事と新館建設のため、3年ほど休館になるというフィンランド国立博物館。48時間通して開館したり、博物館に寝袋で宿泊する企画もあったとか。また現在マンネルヘイム通りは工事中でトラムも走っていない状態、バスがトンデモない道を走っているとのこと。
イ:入り口にクマの像がいるところですね。
https://www.kansallismuseo.fi/en/kansallismuseo
またエスポー近代美術館 EMMAでは、フィンランド・グラスアート展でも話題のカッコネン・コレクションの常設展示。とても充実していて1度では見きれないほどなので、たっぷり時間をとって観にいくとよいそうです。ミホコさんのおすすめが新しくできた絵本作家マウリ・クンナスのコーナー。お隣にはルート・ブリュックとタピオ・ヴィルッカラの常設展示があるので、大人も子どもも楽しめますとミホコさん。
ミ:EMMAは地下鉄で行けるようになりました、以前はバスでしたが。
https://emmamuseum.fi/en/
リーヒマキガラス博物館では、ポーランドのガラス作家 Marta Klonowska の作品展を開催中(12月31日まで)。絵画の中に登場しているもの(たとえば浮世絵の中の鯉)を立体化してガラス作品にするというもの。細かいガラスのかけらを組み合わせて作るそうです。
ミ:言葉で説明するのはなかなか難しいです。
https://www.suomenlasimuseo.fi/english
さらにイッタラ・ヴィレッジ。道具や写真のコーナーがあり、ガラス制作の様子がよくわかるようになっているとミホコさん。また平日には工場見学もできるのでおすすめとのこと。ミホコさんの友人ノリコさんも「ぜひいらしてください、お待ちしています」と仰っていたそうです。
イ:イッタラ・ヴィレッジのInstagram Liveなどでよく登場される方ですね。
https://iittalavillage.fi/ja
展示などについてのくわしい内容はミホコさんが書かれているブログをぜひご覧ください。
▶︎ 北極星を真上に見上げて
── 悲しいことがあったなら雨を見上げて歩いてみるといい。みんな洗い流してくれるから。明日はきっと晴れるよ。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。
text : harada
#133|Raindrops Keep Fallin’ On My Head – Manic Street Preachers