#132 妖精たちの子守唄

ほんのすこしの勇気をもって一歩ふみだしてみたら、妖精がにっこり微笑んでくれるかもしれません。今日もよい一日を ──

Moi!フィンランドをもっと好きになる132回目の配信レポートをお届けします。メニューはこちら。


映画『AALTO』先行上映会 @ 東海大学

最初はまず自分の報告から。表参道のHyvää Matkaa!で開催された「映画『AALTO』公開記念トークイベント」の記事を公開しました。ヴィルピ・スータリ監督のトークと一緒にフィンランドを旅するような気分になってもらえたらとおもいながら書きました。読んでもらえるとうれしいです。

▶︎ アールト建築と映画『AALTO』をめぐる旅

そして先週の配信でミホコさんが紹介してくれた先行試写会へ行ってきました。片道2時間の列車にゆられて東海大学へ。試写会の前に立ち寄ろうと思っていたのが「ジンジャーとピクルズや|ginger & pickles」というカフェ。これまで13年以上営業されてきたお店で、今年4月に東海大学キャンパスの門を出てすぐのところに移転オープンされました。

入り口のガラス窓には、映画『AALTO』のポスターと先行試写会の案内。お店に入ると「ご存知ですか?これから大学で試写会があるんですよ」と気さくに声をかけてくださいました。北欧の家具や絵本、雑貨などに囲まれて、明るく開放的な雰囲気ですがとてもゆったりと落ち着ける空間。カウンターの方から、なにやらおなじみの香りが漂ってきます。想像した通りトレーの上にたくさんのシナモンロール(カーネルブッレ)が。

注文を待つ間、そのカーネルブッレを購入しにきた方がいました。どこかで聞いたことのある声だと思っていたら、なんと試写会の主催者である東海大学の柴山さんでした。食事もおいしくあまりにも居心地が良いのでうっかり試写会のことを忘れてしまいそうでした。「ごちそうさまでした」とお暇する時、お店の方も「私ものちほど試写会へ行くことにしました!」と。

ginger & picklesは、北欧家具talo(同じ市内にあります)の蚤の市やクリーニングデイにも参加されたりしています。お近くにお出かけの際はぜひ行ってみてください。自分もまたうかがいたいと思っています。

さて今回のイベントの正式名称は「映画『アアルト』から見る同時代に生きた建築家・山田守と東海大学の建築」。先行試写会とヴィルピ・スータリ監督とのティーチインが、山田守の設計した2号館で行われました。講堂の席についてあたりを見渡してみるとどこかアールトとの共通点が感じられるような、オレンジ色の手すりがパイミオ・サナトリウムの手すりに見えてきます。

映画『AALTO』はアイノとアルヴァの手紙を中心にして描かれていると聞いていたので、『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』を元に作られたのだと勝手に思い込んでいました。しかし映画の公開が2020年、本の出版が2021年ということで映画の方が先でした。監督によると本の著者ヘイッキ・アールト=アラネンさんがオフィスに大きな茶色い箱を持ってきてくれたとか。その箱の中に入っていた大量の手紙や写真を見て、映画を作りたいと思ったそうです。それならば自分は本を書こうとヘイッキさん。そうしてお互いにインスピレーションを受けながらアールトの映画と本が生まれたということを知りました。

また監督の話をメモしていると「ヨーラン・シルツ」という名前が聞こえてきました。どこかで聞いた名前だと思っていたら、先週の配信で岩間さんが教えてくれた『白い机』の著者のことでした。映画にとって、アイノとアルヴァの手紙と同じくらい重要だったのが、そのヨーラン・シルツのインタビューテープを手に入れたことだったそうです。おそらくヨーラン・シルツと聞いて気づいた人はあまりいなかったのではないでしょうか。そのことを聞けただけでも試写会へ来た甲斐があったように思います。

ミ:映画を観た後に、監督のインタビューがあったんですか?
ハ:はい、そうです。あと建築学科の教授のお話とかも。
ミ:映画はどうでしたか?
ハ:記事を書くにあたって監督のことやこれまで制作されたドキュメンタリーについていろいろ調べてみたんですが、一般の方を追ったものが多くどこかクスッと笑えるようなユーモアがありました。今回の『AALTO』は真面目なドキュメンタリーでした(ちなみに次回作は「森林を守るラディカルな若い活動家」の話だそうです。ということは、先にミホコさんが翻訳した『フィンランド 虚像の森』と通じるテーマかもしれません)。


シナモンロールの日、それぞれのかたち

次の報告は岩間さん。10月4日のシナモンロールに日に手作りのシナモンロール(コルヴァプースティ)をいただいたそうです。そして次の日はginger&picklesのシナモンロール(カーネルブッレ)を。

フィンランドとスウェーデンのシナモンロールの違いは? というミホコさんの質問に「形がちがう、味もちょっとちがう、カルダモンでもなくシナモンの割合がちがうのか、食感でしょうか? 巻き方は重要ですね」と岩間さん。moiのシナモンロールの上にのっていた砂糖粒についてミホコさんが話を向けると「高温でも溶けない砂糖なんですが、日本で入手できなかったのでフィンランドで買ってきたり、フィンランドへ行く方にお願いしたりしていました」と。

イ:ベルギーワッフルが流行ったころパールシュガーが出てきたように、シナモンロール人気のいま日本でもつくればいいのに。
ミ:ところで原田さん、シナモンロールつくるって言ってませんでしたか?
ハ:はい、えっと、時間がなく、、来年に持ち越しということで‥‥。
イ:期待して待っています、笑。


Hotel MetsäpeuraとMischievous Nature

つづいて岩間さんが本をふたつ紹介してくれました。ひとつめは『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』(福田星良/KADOKAWA)というコミックス。ラップランドを舞台にワケありの若者が老紳士たちが営むワケありっぽいホテルで働く話と岩間さん。まだそれほど突っ込んだ展開はないとのことですが、フィンランドらしい食べ物や飲み物なども出てくるそう。

metsäpeuraというのは、森のシカ。英語だとFinnish forest reindeer。シカなのかトナカイなのか気になり調べてみたところ、コルケアサーリ動物園のサイトに「~Poro vai metsäpeura?~|トナカイ、それとも森のシカ?」という記事がありました。metsäpeuraは野生のシカで、フィンランドでは乱獲により一時絶滅してしまったそうです。生物学的にはトナカイではなく、シカの亜種とのこと。

ミ:前にもなにか似たようなお話がありましたよね。ええと『ホテルメデューサ』。
イ:ああ以前紹介した小説、ありましたね。
ミ:漫画はまだ連載中なんですか?
イ:どうなんでしょう? 何巻まででているのかな。
ハ:(9月に第4巻が出たばかりでした)

そしてもう一冊が、岩間さんがたまたま訪れた銀座の蔦屋書店で面出しされていたというムーミンの本『Mischievous Nature』。ムーミン原作小説の挿絵を集めた豪華本のソフトカバー版です。モノクロの挿絵が500点掲載されていて、岩間さんも「実際に手にとってみるとなかなかいいな」と思ったそうです。

▶︎ ムーミン小説の全アートワークを収録した画集が出版されました!|ムーミン公式サイト

イ:出版はロンドンの古書店(IDEA)からです。スナフキンの服みたいな色の表紙。
ミ:もう一回、本の名前を教えてもらってもいいですか?
イ:ちょっと読みにくいんですよね、ミスチーヴァス・ネイチャーかな。
ハ:(mischievousは「いたずら好きな」といった意味だそうです)


先生に感謝の林檎を

最後はミホコさんの報告です。職場の同僚の方に「先生にりんご」といって渡された真っ赤な林檎。どういうことかと聞いてみたところ、フィンランドでは新学期が始まる初日に先生へ林檎を渡す習慣があるとか。その同僚の方に「あなたはやっていたの?」と質問すると「やったことがない」と、人生初の先生への林檎だったそうです。

©︎mihoko-san

ミ:アメリカやスウェーデン、デンマークなどで行われているみたいです。
イ:スウェーデン系の人から伝わったのかな?
ミ:そういえばドナルド・ダックのコミックであったよねぇと話したり。
イ:どうして林檎を渡すのだろう。
ミ:先生の仕事はたいへんな割に給料が少ないとかあったのではないでしょうか。


おまじないと歯の妖精

そしてもうひとつミホコさん。友人から子ども(ミホコさんも一緒に遊んだことのある)の乳歯が抜けましたという報告があったそうです。上の歯が抜けたら床下に、下の歯が抜けたら屋根の上に投げるという習慣があるけれど、フィンランドではなにか習慣があるのかと疑問に思ったミホコさん、知り合いのフィンランド人に聞いてみました。

ミ:投げたりしたことありますか?
イ・ハ:はい、あります。
ミ:フィンランドでは、枕の下に抜けた歯を入れておくと歯の妖精がやってきてプレゼントを置いていくそうです。
イ:なにを置いていくの?
ミ:ヨーロッパの習慣でコインを置いていくとか。知り合いはお菓子だったそうです。知らないとか、やってもらったことがないというひともいましたが。
イ:お菓子はいいね。
ミ:マンションとかだと車にぶつけたりしてしまうかもしれないから投げられませんよね。
ハ:(屋根の上にも届かなそうだなあ)


── 喜びというものはきっと誰かと出会ったり、何かを見つけたりすることのなかにあるのだと思います。たとえ失敗したとしてもいつか笑い話にしてあげよう。夜眠るとき、妖精たちのために枕元にお菓子を置いておくのもいいかもね。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。

text : harada

#132|Fairy Tale Lullaby – Elizabeth Mitchell