Aakkosetとは、フィンランド語でアルファベットのこと ──。
Moiのスタッフがそれぞれ思いつくまま自由に選んだフィンランドのことばから、ささやかな日常の風景をお届けします。
今回のアルファベットは【H】です。
青い時間
青い時間(l’heure bleue)は、『レネットとミラベル 四つの冒険』というフランス映画に収められた掌編のタイトル。ヴァカンスで田舎を訪れていたパリジェンヌのミラベルが、ひょんなことから知り合った同世代の少女レネットに誘われて「青い時間」を見にいく話です。
夜明け前のほんの一瞬訪れる「真の静寂」に包まれた世界、それが青い時間。ふたりは薄明の中、麦畑で息をひそめてその瞬間を待つのです。いや、ただ待つというよりも、それは「つかまえに行く」と言ったほうがより正確な気がします。そのくらい、青の時間は臆病で、儚い。
空気が冴え冴えとした日没前のほんの一瞬、ごく稀にとはいえ、東京でも「青い時間」が出現することがあります。そんなときは、仕事もなにもかも放り出してベランダに飛び出したくなります。あの青い空気を、ちいさな瓶に詰めてずっと机の引き出しにしまっておければいいのに、柄にもなくそんなことを考えてみたり。
ところで、青い時間のことをシニネンヘトキ(sininen hetki)と呼ぶ北欧フィンランド。厳密には、冬の夜明け前や日没前に現れる現象を指して言われるようですが、日本人のぼくからすると、初めて体験した白夜もまさに「青い時間」そのものでした。
あるいは白夜というと、一晩中まるで昼間のように明るいものとして勘違いしてしまいそうですが、実際の白夜は、日没の後にとても静かな青い時間が訪れ、やがてまたゆっくりと夜が明けてゆきます。こんなにたっぷり青い時間が味わえるとはなんて贅沢なことなんだろう。ホテルの部屋で、カーテンも閉めずに毎晩、ぼんやり青いヴェールに覆われたような街並みをうっとりと眺めて過ごしました。
ときどき無性に思うのです。シニネンヘトキをつかまえに、またフィンランドへ行きたい、と。
hetki = 瞬間
text : iwama
いつでも微笑みを
フム。
笑うということは確かに大切かもしれない。これまで何度も助けられてきたように思う。潤滑油、緩衝材、笑う門には福来る。ここでいう門は家庭、家族の意味らしい。
フム。
とはいえ、いつでも笑っていられないことだってある。わかっていてもそうはいかない。疲れていたり、怒っていたり、悲しんでいたり。とにかく気持ちに余裕がないときなんかは、もう。
フム。
それでも笑えたら気持ちが楽になるような気がするから、バカバカしい冗談を言ってみたりする。心を癒そうとして、気持ちをなだめようとして、苦しみを忘れさせようとして。すると、たいてい怒られる。
フム。
余裕がないときってどんなときだろう。人生は短い、でも長い。時間はたっぷりあるけれど、ほとんどない。矛盾しているようで実際の感覚はそんなもの。近くを見るか、遠くを見るか。
フム。
もちろん無理に笑う必要なんて全然ない。時間が経てば、いつか笑い飛ばせるから。真剣に悩んでいた自分や無理やり笑わそうとした誰かや。そうだったいいなという希望も込めて。
フム。
笑いにもいろんなかたちがある。抱腹絶倒、愛想笑い、泣き笑い。それでもやっぱり微笑みがいちばんいいとおもう。なんといっても自然だから。ふとした瞬間、自分が微笑んでいることに気づいたときの幸福感。
フム。
と、つぶやいたまま、どうぞ今すぐ鏡を見てみてください。
hymy = 微笑み
text : harada