「こんどサウナイベントを近くの広場で開催する予定です」
── そういえば広場、ありましたね。今朝、飯盛山に登る途中で見かけました。
「えっ!登ったんですか」
大阪・大東市と四條畷市の間にある飯盛山は、史跡やハイキングコースがあり、地域の方々に親しまれています。ちょうど梅が見頃の季節で、山の上の大きな木にはハイジのようなブランコがぶら下がっていました。ちなみに近所の公民館には「元気でまっせ会場」という看板が出ていました。なんだかいい町だなと思いました。
ちいさな町のKeitto
その飯盛山のふもとにあるのが、2023年3月19日にオープン2周年を迎えた Keitto。個人的にもいつか訪れてみたいとずっと気になっていたのですが、実際に訪れた Keitto は小さな驚きの連続で想像以上にワクワクする場所でした。
案内をしてくれたのは Keitto の小谷さんと砂坂さん。小谷さんとはSNSでご挨拶したことがあり、初対面ですがうれしい再会です。砂坂さんはフィンランドで暮らした経験があるということで今回特別に同行してくださいました。
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それではまず Keitto の基本情報をご紹介します。
■ 住所:大阪府大東市北条3-8-1 □ 最寄駅:JR学研都市線・四条畷駅 徒歩5分 ■ 定休日:火曜日 □ 住宅+公園+商業施設からなるmorineki内 ■ Keittoはフィンランド語でスープの意味 □ 7つの直営店 Keitto Ruokala(北欧ファミリーレストラン) Keitto Leipä(ベーカリー) Keitto Asua(衣料品・雑貨など) Keitto Oppi(ワークショップスペース) もりねき食堂(社員食堂) Keitto手づくり工房(紙・布・食の工房) NORTHERN TRUCK / LILASIC(衣料品など) ■ WEB:https://northobject.com/keitto/ □ Instagram:https://www.instagram.com/keitto_morineki/ |
いろいろな種類のお店が軒を連ねている Keitto は、それ自体がまるでちいさな町のようです。せっかくなので町の一日の始まりを見てみたいと思い「開店の様子を見せてくれませんか?」と小谷さんにリクエストしていました。
「ふつうのお店と全く変わりませんよ」と仰っていましたが、cafe moi をほんの少しお手伝いさせてもらった自分自身の経験から、開店の準備とその瞬間は特別なものがあるように感じていました。
その日の天気、温度、気持ちやコンディション。最初に訪れてくれるお客さんはどんな人だろう。あれこれ考えながらいちばんドキドキする時間。きっとそこにはお店やそこで働く人たちのありのままの姿があらわれているはず。限られた時間の中ですこしでも Keitto のことを知りたいと思ったからです。
ひろがるつながりの輪
最初に案内してもらったのは、Keitto のなかでもいちばん早く開店するベーカリーの〈Leipä〉。併設されたカフェコーナーには、すでに朝食をとっているお客さんがいらっしゃいました。こちらで作られたパンはレストランの〈Ruokala〉でももちろん提供されます。
〈Leipä〉では、毎月のおたのしみとして新作パンを考案しています。その試食会にはベーカリーのスタッフだけでなく、他の部署のスタッフも参加するそうです。スタッフの方たちそれぞれの、生活の中での気づきやアイデアが出発点となって、自由な発想のパンが生まれる。今月はどんなパンになっているのかなと、ちょっと気になりませんか?
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そして、ほぼ毎日さまざまなワークショップが行われている〈Oppi〉。手しごとやミシン、編み物など、北欧の日常の楽しみを伝えています。いろいろなワークショップを気軽に体験してみることで、自分がどんなことに興味があって、何が得意なのかを発見するきっかけにしてもらえたら、とのことでした。自分の手を動かすことで見つかる気づきがきっとあるはずです。
〈Oppi〉では、ものづくりの楽しみを知るところから、自分の好きをより深めていくところまで、それぞれの目的に応じてスタッフの方々が見守ってくれています。相談やリクエストも受け入れてくれる頼もしい場所です。そこには同じ興味を持つ人たちとの出会いもあるのではないでしょうか。
さらに、近隣の作家さんがアトリエとして使用したり、ワークショップの講師をされたりすることもあるそうです。作家さんの作品は 〈Asua〉で販売されているものもあります。こうして Keitto では、お客さんを中心に、つながりの輪がどんどん広がっていきます。
季節とともにある暮らし
Keitto では、季節ごとのテーマに合わせて、取り扱う商品やメニュー、イベント内容などが変わっていきます。テーマは全てのお店に共通しているので、春夏の服を探しにきたついでに、折々の旬のご飯をいただいたり、季節の行事に参加したりと、うれしい出会いがあるかもしれません。その起点となるのが、衣料品や雑貨などを取り扱うライフスタイルショップ〈Asua〉です。
普段と違うものをほんのすこし背伸びして使ってみることで、日々の生活に彩りが加わることがあります。そこで得た新しい視点は、これからの暮らしをちょっぴり豊かにしてくれるはず。〈Asua〉は、月に一度訪れるたびに、そんなアイデアやヒントの種を持ち帰ることができるような場所だと思います。
ここで小谷さんが『タネをまこう』という企画について話してくれました。Keitto の庭に野菜の種を植えて、育て、収穫するそうです。まずとにかく楽しみながら野菜作りを体験すること。そこから見えてくる景色がきっとあるのではないでしょうか。そんなところにも Keitto の哲学、というと大袈裟かもしれないけれど、根ざしている考え方が見えてくるように感じました。
いつかの町と遠くの町とこれからの町
Keitto をあちこち巡っているうち、いつの間にかお昼を過ぎていました。そこで〈Ruokala〉でランチをいただくことにしました。開店前に見せていただいた時とは雰囲気が変わり、とてもにぎやかで活気に溢れています。
中央のテーブルには morineki ができる前からこの場所にあった大きなクスノキの枝が置かれています。それぞれ他のお店でもディスプレイなどに再利用され、町や地域の人たちの思い出がいまも Keitto で生き続けていることがわかります。
〈Ruokala〉のディナーメニューで、北欧好きの方にとくにおすすめしたいのが『今月の北欧コース』です。現地で暮らす家族に教わった北欧の家庭料理が並びます。3月はスウェーデン「春の訪れを待ちわびるアンカーベルグ家の3月の暮らし」でした。料理に添えられる冊子には、メニューの紹介のほか、現地の季節の移ろいやそのときどきの家族の過ごし方が綴られています。
「北欧料理を味わうとすれば、やはり現地の体験には敵わないところがあります。季節や空気、場所やそこにいる人を含めた総合的な体験ですから。ですが、ここの料理やこの〈Ruokala〉という場所を通して、北欧の食文化や、そこから広がる北欧の暮らしに興味を持つ入り口にしてもらえたら」と砂坂さん。
Keitto のある町でこれまで育まれてきた記憶、そして北欧のどこかの町に暮らす家族の物語。楽しく食卓を囲めば、遠く離れているはずの日々の風景が重なって、そこにある暮らしの手触りが感じられます。〈Ruokala〉で料理をいただきながら、まるで自分の暮らしを旅先から見つめるような、そんな体験ができるかもしれません。
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〈手づくり工房〉を覗いてみると、スタッフの方たちがギフト用の箱づくりの真っ最中。こちらから手を振ってみると、気づいて手を振り返してくれました。ここでは Keitto のポスターもパッケージも絵本も、本格的な焼き菓子まで作ってしまうのです。
手づくり工房のケーキが、家族の大切な思い出のそばにあってくれたらうれしい。オリジナルケーキにはそんな想いがあります。町に暮らす人たちとともにひとつひとつ時を重ねながら次の世代へとつながっていく。それは素敵なことだなぁとしみじみ感じてしまいました。
フィンランドの好きなところ
ここで砂坂さんに「フィンランドのどんなところが好きですか?」と質問してみました。「安心感というか、あえて云うなら、帰ってくるといった感覚でしょうか」。フィンランドの人たちから感じる心地よさを周りの人に言葉で伝えるよりも、自分がフィンランドで出会った人たちのように、いつも平らかな人でありたいと仰っていました。「自分を通して、そうしたことを感じてくれたらいいですね」。
そのお話を聞きながら、以前、森下圭子さんから聞いたフィンランド流のおもてなしの話を思い出していました。まずは自分が楽しむこと。輪の中に入りやすい雰囲気を作ること。それぞれのやり方や気持ちを尊重すること。普段着のままでいること。
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今回、実際に Keitto を訪れてみて心に響いたのは、お店やスタッフの方々、お客さんや町のあいだをつながりの輪がぐるぐると巡っている様子でした。そこにあるのは北欧の文化や暮らしを通して、日々の中でそれぞれの心地よさを感じること。小さな幸せを見つけて、自分の手で育てていくこと。その楽しい気持ちをみんなと分けあうこと。
Keitto には、あちこちに「あっ!」と思えるワクワクの種がいっぱい散りばめられています。そして、まだまだご紹介しきれない魅力もたくさんあります。ぜひ一度それらと出逢いに来てみてはいかがでしょうか。きっとまた Keitto に帰ってきたいとおもうはずです。
photo + text : harada
text + edit : sakai