そのお客様は、趣味のため休日ごとに旅に出ている。日本全国津々浦々、いや、ときには海外への遠征もある。それはそれで充実した毎日だが、ときどき、こんな生活を長く続けていてよいものか不安な気分に見舞われるという。じっさい、貯金も目に見えて減った。
そこでそのお客様はかんがえた。そうだ、犬を飼おう。犬を飼ってしまえばそうそう長旅などできなくなる。結果、支出も抑えられるというわけだ。いわば「実力行使」である。
どうせ飼うなら、そう、なにはともあれ「豆柴」だ。小型犬ならマンションずまいでもなんとかなるし、それになんといっても豆柴は愛くるしい。そうと決まれば、ペットショップに行かねばならない。じぶんの暮らしを立て直してくれるよきパートナーたる豆柴をみつけるのだ。
ペットショップで、そのお客様の目に飛び込んできたのはまだ生後2、3ヶ月ほどの黒い豆柴の姿だった。黒いというのもちょっと珍しいし、聞くところでは黒い豆柴の性格は「甘えん坊」らしい。四六時中、こんなつぶらな瞳でじゃれつかれるのだ。旅行なんぞ行ってられるか。1人と1匹ではじまる新しい暮らし。そんなマンションの広告みたいなポエムが頭の中に浮かんだかどうかは知らないが、ふと気づけば、「この子しかいない」、そんな気分にさえなっていた。
だが、無邪気な様子で遊ぶその豆柴のケージに掲げられた値札の数字を目にしたとたん、そのお客様は一気に現実に引き戻されてしまった。二度、三度と見直したので間違ってはいないと言うその豆柴のお値段は、「700,000円」だった。
ところで話は変わるが、スタッフが実家で飼っているという「豆柴」は体重が12キロほどもあるらしい。ふつうは4キロから6キロくらいだというからかなり、というかハッキリ大きい。ブリーダーから豆柴と言われて買ったのだが、すくすく育って気づけばそんな大きさになっていたという。スタッフいわく、「大きな豆柴」。まるで意味がわからない。
「それって返品できないの?」思わず訊きそうになったのだが、じつはたんにぼくが知らなかっただけで、じっさいには品種改良の末に小型化に成功した「豆柴」という犬種が存在するわけではなく、小柄な親同士をかけあわせることで意図的に小柄に生まれさせた柴犬を「豆柴」と呼んでいるだけなのだそうである。なので、この世界には、スタッフの実家の「豆柴」のような思いがけず成長してしまった「大きな豆柴」や、あるいは予想に反して小柄だった「小さなデカ柴」らがそこかしこにはいるのかもしれない。まあ、実際の話、家族の一員として愛情をもって接しているうち、もはや大柄だろうが小柄だろうがどうでもよい気分になってくるのではないか。
さて、豆柴を飼うという野望をあっさり断念した例のお客様、その後どうなったのだろうと気になって尋ねてみた。
「2月の終わりからアメリカに行ってきます!」なにかこう、憑き物がとれたような、晴れやかな笑顔だった。
ポストカードショップとカフェとを兼ね備えたここ「moi」ならではの人気企画、ひさしぶりの開催です。
フィンランドは、じつは知る人ぞ知る「切手天国」。
美しい切手、かわいい切手、楽しい切手、ちょっと風変わりな切手などなど、色とりどりのさまざまなデザインの切手が毎年発行されています。そして、そうした切手たちは、北欧フィンランドの歴史や自然、ひと、文化をよく理解するための優秀な「道先案内人」でもあるのです。
そこで、切手収集家であると同時に、フィンランド語の講師や翻訳も手がける上山美保子さんをお迎えして、貴重なコレクションを手がかかりにもっとフィンランドを知り、もっとフィンランドを身近に感じましょうというのがこのイベント「切手で旅するフィンランド」。
春の日曜日の宵のひととき、ご一緒に楽しく過ごしませんか? お申し込みは以下の通りです。みなさまのご参加、心よりお待ちしております。
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◎ 切手で旅するフィンランド
日時 2018年3月11日[日] 18時30分(18時10分開場) 20時終演予定
会場 moi 吉祥寺駅より徒歩7分
おはなし 上山美保子(フィンランド語講師、翻訳)
参加費 2,500円(ドリンク、焼き菓子、ささやかなプレゼントつき)
以上、どうぞよろしくお願い致します。。