2012.2
> 2012.1
2011.12

穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』
2012.1.2|review

ほむほむ、舌好調である。

恋愛について、というよりも恋愛にまつわる妄想のたぐいについて語らせたら、あるいはこのひとの右に出る者はいないのではないか。

なかでも、女性にちょっとしたメールを送るとき、そこに潜ませる「思わせぶりな一行」について書かれた「1%のラブレター」が、いい。文末を「?」にするか「。」で思い悩むその自意識過剰さ…。

笑い飛ばしたいところだけど、いちいち自分にも覚えがあるので笑えない。ただただ、この本を多くの女性が読まないことを祈るばかりである。いや、むしろ読んで(わかって)欲しいのか… ややこしや〜。

深沢七郎『言わなければよかったのに日記』
2012.1.21|review

再読。いや、再々読? ときどき思い出しては読み返す深沢七郎のエッセイ集。

なかでは、「とてもじゃないけど日記」がいい。うっかり(?)小説『楢山節考』がベストセラーになってしまったことで巻き込まれる珍騒動の数々、そして、本人の思いとは別のところでひとり歩きするイメージに苦悩する日々…。とてもじゃないけどやってられないよ、というわけだ。

『楢山節考』が芝居化された折り、役者による迫真の演技を目の当たりにして「おっかなく」なってしまい、思わず結末を変えようと作者みずから言いだして周囲から止められるエピソードには失笑せずにはいられないが、そんななかすべてを心得た尾上梅幸のふるまいには一流の役者ならではの含蓄を感じさせてくれて感激する。そしてこういうところに、むしろ、深沢七郎というひとの観察眼の並々ならぬ鋭さを発見するのである。

それにしたって、文中に登場する石原慎太郎ときたらなんとも「いいひと」なんだがなぁ…(笑)。

広瀬和生『この落語家を聴け!』
2012.1.28|review

唐突に「落語」に興味をもって一ヶ月そろそろ寄席や落語会に出かけてナマの高座にも触れてみたい…… この本と出会ったのは、まさにちょうどそんなタイミングのことだった。

著者はヘヴィメタ専門誌「BURRN!」の編集長にして、年間1500を超える高座を観続けてきたというライブ至上主義の、筋金入りの「落語好き」である。著者によれば、現在の落語シーンは「名人」と呼べるような存在こそ極端に少ないものの、その一方で若手や中堅の噺家のなかに数多くの逸材が存在する、いわば「黄金時代」なのだという。そして、そのせっかくの「黄金時代」を満喫するために、いままさに寄席や落語会で聴くことのできる噺家たちを取り上げ、紹介したのがこの本『この落語家を聴け!』である。

寄席や落語会に出かけようと思ったが、いったいいまどんな噺家がいて、どんなネタを高座にかけているのか皆目見当がつかない。寄席の番組表を見たはいいが、なじみのない名前ばかりで誰を目当てに足を運べばいいのかわからない。そんなとき、この本はとても役に立つ。なぜなら、いくら百花繚乱の「黄金時代」とはいえ、すべての噺家が面白く、わざわざ時間を割いてまで聴くに値する噺家とはかぎらないからである。

しかしぼくらの生きるこの時代には、幸いなことにインターネットという文明の利器がある。まずはこの本でとりあえず聴いてみたい噺家をチェックした上で、ネットでさらに検索をすればその噺家のさまざまな情報(プロフィールや本人によるSNS、落語会の情報から、場合によっては高座の動画まで)にかんたんに触れることができる。これだけで、初心者にとってはひどく「敷居が高い」と感じていた寄席や落語会がぐっと身近なものになる。そして寄席や落語会といったライブ空間では、ときには新たな魅力的な噺家との出会いが待っているかもしれない。

落語をまったく知らないひとではなく、落語にちょっと興味をもったひとがさらなる深みにハマろうというとき紐解くと恰好の手引書になるにちがいない。

2012.2
> 2012.1
2011.12