理想と現実とのギャップに翻弄されながらも、文字通りその生涯を「芸術」のために捧げた孤高の音楽家ビル・エヴァンス。
その苦悩に満ちた人生を、さまざまなかたちで彼に関わった人間たちの証言を引き合いに出しながら、ときに大胆な推理も交えつつ描いた評伝。読みながら、まるでテレビのドキュメンタリーでも観ているかのように鮮明なイメージを結んでゆく構成のおもしろさは、きっと著者の手腕によるところも大きいのだろう。
全幅の信頼を寄せていたベース奏者スコット・ラファロが不慮の事故により突然この世を去って以降、ビル・エヴァンスはソロ以外で「I Loves You, PORGY」を演奏することがほとんどなくなった。その「理由」は……
と言ってポール・モチアンが明かすエピソードは、その真相はともかく、哀しく、そして美しい。