寒くなってから初めてのりんご。
フィンランド語クラスのさいとうさんが持ってきてくれた、「しなのスイート」というりんご。ご実家が長野で果樹園を営んでいらっしゃるさいとうさんは、時期になるといつも獲れたてのりんごやナシ、ラ・フランスなどをお裾分けしてくださるのだ。カタチが不揃いだったり、ほんのちょっと傷があったりして市場に出荷できなかったモノだというけれど、いやいやシロウト目にはどれも立派なりんごであり、ナシである。
じつはさいとうさん、果樹園の片隅でディルも「栽培」している。ディルというのは、北欧に行けばどんな料理にでも入ってくる「定番」のハーブある。moiでももちろんよくこのハーブを使うのだが、あつかっている店が限られている上、ビニールハウスで栽培されたそれはどれもヒョロヒョロで鮮度もあまりよくない。それにひきかえ、さいとうさんが差し入れしてくれるディルときたら、茎の太さから緑の鮮やかさ、日持ちのよさまで本当にすばらしく感動させられる。できれば「契約栽培」をお願いしたいくらいだが、なんでもお父さんはディルを雑草の一種としか思っていないらしく、気づくと抜かれた後といったこともしばしばらしい。もしもディルにもっと需要があって、そこそこの値段で「売れる」ということを知ったら、さいとうさんのお父さん、さぞかし目の玉をまんまるくされることだろう。
思い出したように突然寒くなったきのう、あたたかい気持ちをいただいた。人形町と浜町にお店をかまえるドイツパンの名店『タンネ』のパン。
本場の味を守るためドイツからパン職人を招聘しているというだけあって、お店には選ぶのに苦労するほどたくさんの、さまざまなドイツパンが並んでいる。聞くところによると中心は南ドイツのパンで、50種類を超えるバリエーションがあるらしい。
タンネのパンを口にすると、ドイツ人にとってパンは日本人にとってのコメのようなものなのだ、ということが思い出される。つまり「白いごはん」がそうであるように、いい意味で「ふつう」なのだ。だから、一緒においしいジャムやバター、ハムやチーズ、あたたかいスープやクリームたっぷりのグラタンなどがつい欲しくなる。それはフィンランドのパンにもあてはまる。仮にぼくらがパンに対してなにか突出した個性を求めてしまうとしたら、それはおそらくぼくら日本人にとって「パン」は自分たちの食文化の「外がわ」にあるものだからにちがいない。「主役」でも「脇役」でもなく、いつも当たり前のように食卓の上に「ある」もの……。
「タンネ」のパンに、「白いごはん」のような「安心感」をおぼえるのはそのためである。ふと気づけば、もうじきクリスマスシーズン。本場の「シュトーレン」も楽しみだ。