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#157 お別れの一曲

フィンランド初心者の自分としてはお話しできるようなことはほとんどないので、何か考えなくてはいけません。そこで近所の森から参加することにしました。それはなんとなく誰かが話している後ろで鳥の声や風の音が聞こえたらいいなあと思ったからです(最初のレポートより)──

Moi!フィンランドをもっと好きになる最後のレポートをお届けします。メニューはこちら。


Hyvää pääsiäistä!

最初の報告はミホコさん。今年のイースター(pääsiäinen)は3月31日ということで、ミホコさんもイースター休暇に。そこで同僚のフィンランドの方々にイースターにはどうやって過ごすのかを質問してみました。

その答えは「クリスマスと違ってなにもしない」「両親がたまごを隠してくれていた」「子どもが大きくなってからはやらなくなった」というもの。イースターの行事自体が縮小してきているのでしょうか? それとも子どもたちがメインの行事になってきたのでしょうか?

イースターのテーブルの上にパシャ(P.D.)

ミ:フィンランドではマンミやパシャといったお菓子を食べますね。
イ:パシャっていうのはどんなお菓子ですか?
ミ:元々はロシア正教会のお菓子。白くて甘い。
イ:白いというとクリームチーズとか?
ミ:うーん、チーズとはちょっと。先日某スーパーで見かけましたが味見はしていません。
イ:この時期に出回るお菓子なんですね。
ミ:はい、イースターのお菓子です。
ハ:(ピラミッド型のお菓子でラハカという乳製品:maitorahka を使うそう)


フィンランドで見つけた日本の小説

つづいて「今年は1年のリズム作りとして、本を読もうと思っています」とミホコさん。すこしでもスマートフォンから離れることを目標としているそうです。その読書の候補としているのが、フィンランドで見つけた日本の小説たち。

夏目漱石『夢十夜』
八木詠美『空芯手帳』
夏川草介『本を守ろうとする猫の話』
柳美里『JR上野公園口』

イ:フィンランド語版を読むんですか?
ミ:オリジナルの日本語版を。逆輸入ですね。
イ:それらはフィンランドの訳者によるもの?
ミ:はい、日本語のできるフィンランド人訳者が少しずつ増えてきました。
イ:やっぱり読んでおもしろいと思った本を訳すのかな?
ミ:そうでしょうね。フィンランドでも人気のある作家は出版社からの売り込みかもしれません。
イ:日本人とフィンランド人でおもしろがるポイントにも違いがあるでしょうね。
ミ:新たな発見になりますね。


ムーミン民族とサンタクロース民族

次は自分の報告。だいぶ季節外れですが『サンタクロースの大旅行』(葛野浩昭/岩波新書)という本を読みました。そもそもなぜこの本を読もうと思ったのかというところからはじまり、そこには長い長いお話が、笑。

前々回、ミホコさんから『ユリイカ』のトーヴェ・ヤンソン特集をおすすめされたことをお話ししましたが、それを都立多摩図書館で閲覧してきました。貸出不可だったので(最寄りの図書館で取り寄せとすれば可能だったのかも?)、午前中から日暮れまで2冊の『ユリイカ』をくまなくチェックして、メモを取りまくりました。

トーヴェの短編やエッセイの翻訳、インタビュー再掲、対談や解説、考察など興味深い記事がたくさんで読みきれません。ミホコさんのいうように確かに手元においておきたくなるような特集でした。そのなかで気になったのが、文化人類学者の葛野浩昭さんによる《「サンタクロース民族」と「ムーミン民族」フィンランドの二つの少数民族問題について》という記事。

スウェーデン系フィンランド人を「ムーミン民族」、サーミの人たちを「サンタクロース民族」と見立てて考える発想がおもしろいと思いました。そこで地元の図書館で見つけたのが葛野さんの『サンタクロースの大旅行』という一冊。サンタクロースのルーツから、どのように現在のサンタクロース像ができあがっていったのかなど、いろいろなエピソードが図版と共に紹介されています。

その本を読んでいてこれはと思った発見は、1809年に出版されたワシントン・アーヴィング『ニューヨーク史』の中で裕福な夫人のことを「トナカイの毛皮をたくさん持っているラップ人の美人ようだ」と書いていたという記述。当時の欧米諸国では、サーミに対するある種のあこがれ(エキゾティシズムのような)がすでに存在していたようです。そこで突然頭に浮かんだのが、アールトベースの最初の名称《エスキモー女性のレザーパンツ》のこと。きっとアールトによる命名のインスピレーション元は同じところにあったのではないかと推察しています。

もうひとつがサンタクロースの家があるといわれたコルヴァトゥントゥリの丘。その丘の向こうにあって現在はロシア領となっているペッツァモ地方について。まずカレリア地方以外にも領土問題があったということを初めて知りました(国境線の長さを考えれば当然ですね)。そのペッツァモ地方の東にある街が「ムルマンスク」。どこかで聞いたことのある地名だと思い調べてみたら、映画『コンパートメント No.6』で主人公たちが向かう最終目的地でした。

こうしてフィンランドに関するいろいろなことを知ることで、すこしずつ点と点が線でつながっていくことも配信をしていてよかったことだと思っています。目的地を決めない方が遠くまで行けるような気がします。

ハ:葛野さんは1年半くらいウツヨキのサーミの家族と一緒に暮らしていたそうです。
イ:フィールドワークですね。いつ頃の本?
ハ:えっと、1998年です。
ミ:あっ!
ハ:えっ、なにかありましたか?
ミ:読んだことありました。あとムーミンパパの本もなんかありましたね、なんとか手帖とか。
イ:あー、あったような気がする。
ミ:(『ムーミンパパの「手帖」トーベ・ヤンソンとムーミンの世界』東宏治/鳥影社)

イ:そういえばトーヴェ・ヤンソンのコレクションが揃ったって。
ハ:はい、ムーミンじゃないお話の全8冊です。
ミ:筑摩のですね。私もどこかにあるんですけど‥‥。
ハ:10年近く前から古書店で集めるでもなく集めてて。

配信終了のこのタイミングで揃うのもおもしろいなと

これらトーヴェの本もそうですが、noteで書いていた「フィン語辞典・カレワラを旅する・カウリスマキ鑑賞記」の連載が途中ですっかり止まっていて、フィンランドの宿題が山積みの状態。今後はそれらをゆっくり楽しみながらやっていこうかなと考えています。


三体問題っていったい?

そして岩間さんがユカさんを呼び入れます。「最近はぜんぜんフィン活できてないんですけど‥‥、中国のSF小説『三体』を読んでいたところ、脚注に《フィンランド》という文字を見つけました」とユカさん。

そこにあったというのが、天文力学の「三体問題」を解いたカール・スンドマン(Karl Sundman)という人物。フィンランドの数学者・天文学者で、ヘルシンキ大学の教授も務めました。

「三体問題」とは、天体の運行をモデル化したもので、万有引力によって影響し合う2つの天体の軌道が〈楕円〉〈放物線〉〈双曲線〉のいずれかになるのに対し、そこに3つ目の天体が加わったとき、どのように軌道が変化していくのか、という問題(書いているそばから混乱してきます、笑)。

ユカさんは、岩間さんとミホコさんが打ち合わせしているところに偶然居合わせ、「内緒話を聞いたんだからユカさんも話してね」と、いつの間にやら第3のモデレーターとして参加してくれることになりました。最後にもこうして参加してくれてうれしかったです。ありがとうございました!

ユ:さっきミホコさんが言っていた【北欧の神秘】展に来週行こうと思っています。
ミ:SOMPO美術館のあと巡回するんでしたっけ?
ハ:はい、巡回します(長野・滋賀・静岡)。

▶︎ 北欧の神秘 ─ ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画
ミホコさんは配信後に【北欧の神秘】展へ

ムーミンショップで退職祝い

最後は岩間さんの報告。リトルミィ好きの方への退職祝いを選ぶため、ムーミンショップを訪れました(ムーミンショップといえば、4月12日に二子玉川に新しいお店がオープンします)。

イ:ミホコさんは配信が3年も続くと思ってましたか?
ミ:何にも考えていませんでした。
イ:フィン活を紹介するという趣旨でしたが、フィンランドに対する意識に変化はありましたか?
ミ:イベントや情報が多くなりましたね。一方で情報がないから自分で探しにいくという楽しみがあったのですが。あと「私のフィンランド」と思っている方が多いと思うので発言するのが怖いなぁと、笑。
イ:とくにフィンランドにはそれぞれの入り口がいろいろありますからね。

ここで2022年(#086)にもお伝えした小児がん経験者の子どもたちとその家族がデザインした「ムーミン」グッズについてのご案内をいただいたのでご紹介します。

今回も子どもたちが事前勉強会で商品の製造工程を学び、アドバイスを受けながらタオル、エコバッグ、マグカップのデザインをしました。売り上げの一部は、支援団体であるNPO法人シャイン・オン!キッズへの寄付となります。

紹介した商品は MOOMIN SHOP ONLINE、各地のムーミンショップ、ムーミンカフェ軽井沢、ムーミンバレーパークでお求めいただけます。機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。

▶︎ ムーミン公式サイト


フィンランドをもっと好きになる

配信の始まった2021年4月当初には「早起きは3€の徳」というユカさん考案のキャッチフレーズもありました。さて、ぜんぶで何ユーロの徳を積むことができたのかと計算してみると、なんと471€。せっかくなので、一週間くらいフィンランドで過ごしてみたいところです。

また最終回の配信では参加してくれたみなさんからうれしいコメントをたくさんいただきました。その言葉をずっと読んでいたので終盤はほとんど話の内容が頭に入ってきませんでした、笑。

というわけで、この配信の発起人であるミホコさんから最後の締めを。

「ある日、イッタラカフェでマスター(岩間さん)に相談したところ、了承してもらい始めることになりました。日曜日のお出かけ前にちょこっと聞いてもらえたらいいなと。いつも聞きに来てくださる方はもちろん、久しぶりに来てくれた方などもアイコンで確認しながらお話ししてきました。これからもみなさんそれぞれが好きなテーマやフィールドを見つけて、フィンランドを楽しんでいただけたらうれしいです」


── 最終回も森から。こうして3年にわたってお届けしてきた時間は、いまは気づかないかもしれないけれど奇跡のような幸せな時間だったのかもしれません。お付き合いくださいまして本当にありがとうございました。それでは今回はこの辺で、またいつか。

森はカタクリが満開でした

text : harada

#157|Ballad of Big Nothing – Elliott Smith