#109 よーく考えよう

困難はそれを乗り越えられる人にだけやってくる、といいますが ──

Moi!フィンランドをもっと好きになる109回目の配信レポートをお届けします。メニューはこちら。


元祖こじらせ?『フィンランド雑記』

この日ここに行こうと決めてフィンランドと出会うのもいいですが、たまたま偶然にフィンランドと出会うのもまたいいですよね、と岩間さん。国立国会図書館のデジタルコレクションの中で、昭和16年に発行された『フィンランド雑記』という本を見つけました。

こちらの本は、在フィンランド日本大使館の書記官を務めた市河彦太郎とその夫人かよ子が書いたエッセイ集。ふたりが当時のフィンランドで体験したエピソードを集めたもので、第一部を彦太郎氏、第二部をかよ子夫人(詩人でもあるそう)が担当。フィンランド好きをこじらせた元祖(笑)のような人たちじゃないかと、岩間さん。

彦太郎氏が在館していたのは1933年から1937年。フィンランド独立から15年足らずのことで、フィンランドがどんな国かということも日本ではほとんど知られていなかったのではないかとのことでした。それでもいまの僕らの思うフィンランドと変わらない部分を感じたそうです。

岩間さんが注目したのが、アールト夫妻との関係。彦太郎氏とかよ子夫人はフィンランド初代公使ラムステッドの紹介で知り合い、アールトの自宅を訪れるなどとても仲が良かったそうです。ちょうどアールトが機能主義へと舵を切るもっとも注目された時代。そんな時期に友人としてアールト夫妻と交わっている様子がとても興味深かったと岩間さん。

当時アイノが建物の内装を一手に引き受けていたという記述もあり、パイミオ・サナトリウムなどもやはりアイノの仕事であったことが推察されます。またアールトの自宅に子どものおもちゃが全くないことに驚いたというエピソードも。女の子は機織りをしたり、男の子はナイフで釣り道具を作ったりしていたそうです。フィンランドではそんなふうに手しごとに馴染んでいたのかもしれません(もちろん貧しい時代だったということもありますが)。

興味を持たれた方はぜひ国会図書館のデジタルコレクションを閲覧してみてはいかがでしょうか。


SADIセミナー「フィンランドの森と木と木造」

次の報告は自分。SADI 北欧建築・デザイン協会のオンラインセミナーを受講しました。講師は鹿児島大学大学院の鷹野敦准教授。

日本とフィンランドの森の様子に木の種類(広葉樹/針葉樹)、そこから作られる建物の違い(柱と梁/ログハウス)。近年の技術進歩によってより大きな木造建築を建てることができるようになったこと。環境やサステナビリティに配慮したこれからの木造建築についてなど、とても面白い話を聞くことができました。

フィンランドと比べると日本ではまだ森林を利用できる余地が大きいそうです。ですが、ミホコさんが翻訳された『フィンランド 虚像の森』(新泉社)を読んで知ったことなどを考えると、もっと慎重に考えなくてはいけないのではないかと思いました。

ハ:「OodiとかLöylyとか大きな木造建築が増えてるじゃないですか、あれって木材加工で強度を上げることができるようになったからだそうです。あと日本でも木造の高層ビルが計画されているみたいですよ」
ミ:「そうですね。あの木材は特殊な接着剤を使っていて、現在の日本の建築基準法では不適格のようです。日本の木材を使って欲しいですよね」
ハ:「いまはまだ輸入した方が安いそうです」


マリアンネ・フオタリ作品展 『Infinite Bloom』

もうひとつの報告が、北青山のドワネルではじまったマリアンネ・フオタリ作品展『Infinite Bloom』について。初日は18時からマリアンネさん本人が在廊されました。

マリアンネさんはArabia Art Departmentにも所属するアーティストで、主にセラミック作品を制作しています。またFINARTEというラグのブランドのアートディレクター、そのほかデザイナーとしても活躍されています。

会場に多く展示されていたのが、Ceramic Flowersという陶製の花の作品。数年前、花びら一枚一枚を組み合わせたその作品を初めて見た時、ファブリックで出来ているものだとばかり思っていました。近づいてみてそれが陶だとわかった時にはとても驚きました。

以前、マリアンネさんが作品制作をしている動画を観たことがあったのですが、そこでは網に花びらのパーツを結んでいるシーンがありました。京都のリュイユ展で新しいアートリュイユを見てきた今、そういえばリュイユの製作方法と似ているなと思っていました。

そして今回マリアンネさんが、リュイユのデザインを手掛けていたことを知り、その印象が間違っていなかったことがわかりました。

展示は5月9日まで。ぜひ会場へ。

▶︎ Marianne Huotari ExhibitionInfinite Bloom | doinel


ピエタリ・インキネンとクッレルヴォ

最後の報告はミホコさん。ピエタリ・インキネンが日本フィルハーモニー交響楽団主席指揮者として最後となる東京定期演奏会へ行きました。

会場はサントリーホール、演目はクレルヴォ交響曲。生で聴くのは今回が初めてだったというミホコさん、とても音がいいと思ったそうです。座席も前から4番目でとても迫力があり、指揮者の指示の様子などもよくわかったため、視覚的にも楽しめたそうです。

©︎mihoko-san

ミ:原田さん、先日アイノラ交響楽団のクッレルヴォを聴きに行ってましたよね。合唱団は日本の方たち?
ハ:そうですね、日本の合唱団でした。
イ:前にアイノラ交響楽団を聴きに行った時は、ヘルシンキ大学合唱団が歌っていましたよ。
ミ:ヘルシンキ大学合唱団の歌うクッレルヴォの歌詞はいいけれど、ソリストの歌うフィンランド語はオペラの歌詞としては大変そうでしたね。
ハ:ミホコさんはフィンランド語の歌詞の内容がわかるので、また聴こえ方がちがうかもしれませんね。
ミ:東京音楽大学合唱団も一緒に歌っていたのですが、発音や口の形が気になりました。ちょっといじわるでしょうか、笑。


フィンランド語の世界を読む

そしてもうひとつミホコさんから、白水社から出版された吉田欣吾著『フィンランド語の世界を読む』について。フィンランド語の参考書といえば吉田さんの名前が最初に上がると思いますが、こちらの本は、230のコラムを30のテーマで書いた一冊。

フィンランド語の短いテキストは完全に直訳ですけれど、自然や文化にニュースなど、これぞテッパンというフィンランドをおさえつつ、最後は「勉強してね」という内容です、とミホコさん。

▶︎ フィンランド語の世界を読む|白水社

©︎mihoko-san

── できれば来ないといいな……、いや、来ないでください! と日々考えています。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。

text : harada

#109|Think About Your Troubles – Harry Nilsson