2021年10月8日(金)、フィンランド大使館敷地内のメッツァ・パビリオンで映画『TOVE/トーベ』公開記念イベントが開催されました。この映画は、みなさんご存知のようにムーミンの物語を生み出したトーベ・ヤンソンの人生を描いた作品です。
今回のイベントでは、フィンランドセンター所長アンナ=マリア・ウィルヤネンさんによる「トーベ・ ヤンソンの生涯」というレクチャーと、北欧旅行フィンツアーによる「トーベ・ヤンソンゆかりの地巡り」の紹介。そしてイベントの終わりにはトーベ役を演じた主演俳優アルマ・ポウスティさんがオンラインでインタビューに応じてくれました。
+ トーベ・ヤンソンの生涯
+ トーベ・ヤンソンゆかりの地巡り
+ 主演アルマ・ポウスティ公開インタビュー
トーベ・ヤンソンの生涯
フィンランドセンターでは、これまでにもトーベ・ヤンソンに関するカンファレンスを開催してきました。2018年の「トーヴェ・ヤンソン 〜ヴィジュアルアーティスト・作家・自然景観愛好家・女性としての彼女〜」、そして2019年の「トーヴェ・ヤンソンと日本の影響力」です。
そのうち2019年に参加したカンファレンスでは、トーベ研究の第一人者であり評伝の著者でもあるボエル・ヴェスティン(Boel Westin)さんをはじめ様々な研究者の方が登壇され、とても興味深い話を聞くことができました。今回はその時に総合司会を務められていたアンナ=マリア・ウィルヤネン(Anna-Maria Wiljanen)所長がトーベ・ヤンソンの生涯について話されました。
トーベ・ヤンソンが育ったのはヘルシンキのカタノヤッカ地区。家族は、母と父、そしてふたりの弟です。ちなみにトーベが幼少の頃に遊んでいたカタノヤッカ公園は、2014年トーベ生誕100周年を記念して「トーベ・ヤンソン公園」と改名されています。
トーベの母、シグネ・ハンマルステン=ヤンソン(Signe Hammarsten-Jansson)は、スウェーデン出身でフィンランドの切手のデザインも手がけているグラフィックデザイナーです。トーベにとってとても大きな存在で、歩きを覚えるより前に母の膝の上で絵の描き方を学んだといわれるほどです。またシグネはとても働き者の女性で、家庭でも仕事においても女性の生き方の指針となるような存在でした。
一方、父のヴィクトル・ヤンソン(Viktor Jansson)は、スウェーデン系フィンランド人の彫刻家。ヤンソン家のかかりつけの医者から「4人目の子ども」といわれるほどの人物でした。この父による影響か、トーベにとって仕事と遊びの境界線はあまりなく、パーティなどもよく行っていたそうです。しかしこうした遊びもクリエイティビティにとって重要なものであるとトーベは考えていました。
そしてふたりの弟、ペル・ウロフ・ヤンソン(Per Olov Jansson)は写真家、ラルス・ヤンソン(Lars Jansson)はムーミンのコミックス制作に携わるなど、共同で作品をつくることもありました。
1942年にトーベはこの家族を『Family』という作品で描いています。絵には煙草を吸っている母親の姿が描かれているのですが、当時としては物議を醸すものでした。しかし映画『TOVE/トーベ』の舞台となる1940年代から50年代にかけてのフィンランドでは戦後賠償など多くの借金を抱えていたため、女性も働くことが求められており、その地位の向上や社会的な役割に変化が起こっていたことを象徴していたともいえます。そしてちょうどこの頃トーベ自身にもある転機が訪れていました。
それはムーミンの制作と画家としての活動の間で葛藤しながら、アトス・ヴィルタネン(Atos Wirtanen)、ヴィヴィカ・バンドラー(Vivica Bandler)、トゥーリッキ・ピエティラ(Tuulikki Pietilä)という重要なパートナーたちと出会ったことです。
1943年、作家で政治家でもあるアトス・ヴィルタネンと交際をはじめたとき、彼は既婚者でした。それでも彼のおかげでムーミンが初めて出版されるなど、物語を執筆する上でもよき相談相手でした。ちなみに彼はスナフキンのモデルといわれています。
ヴィヴィカ・バンドラーと出会ったのは1946年。当時のフィンランドでは同性愛は犯罪とされていた(1971年まで、その後も1981年まで精神疾患に分類)ため、ふたりは交際を隠していました。数年でその関係は解消されましたが、その後もヴィヴィカはムーミンの舞台演出を手がけるなど、生涯にわたってその友情は続きました。
そして1955年、ついにトゥーリッキ・ピエティラと出会います。トゥーリッキについてトーベ・ヤンソンは、やっとあるべき人と一緒にいられるようになったと語っています。夏になるといつもふたりは離島のクルーヴハルで暮らし、生涯のパートナーとして過ごしました。
なにより自由を求め、“Freedom is the best thing”という言葉を残しているトーベ・ヤンソンは、いまも私たちにとって重要なロールモデルとして存在していますとアンナ=マリア所長は講義を締めくくりました。
トーベ・ヤンソンゆかりの地巡り
次に登壇されたのは、北欧旅行フィンツアー代表の美甘小竹さん。これまでフィンツアーでは、フィンライブツアーと称してフィンランド在住でムーミン研究家としても知られる森下圭子さんによるオーランド諸島からの配信を行ってきました。今回そのハイライト動画を見ながらオンラインツアーの様子を紹介していただきました。
オーランド諸島には2度滞在したことがあるというトーベ・ヤンソン。最初は1941年のグループ展に画家の代表として、そして1945年夏には映画にも登場するアトス・ヴィルタネンと共に過ごしました。その夏トーベはアトスの生家を拠点として自転車でノートを片手に島を散策し、その様子を「ムーミン谷の彗星」の中で描きました。
そこでフィンツアーでは、オンラインツアーでお届けした内容を、実際にリアルな旅で体験する【映画 『TOVE』を巡るオーランド&ヘルシンキツアー】というプランを企画されました。詳細は後日ホーム ページに掲載される予定とのことですので、どうぞご期待ください。
主演アルマ・ポウスティ公開インタビュー
イベントの最後に登場したのは、映画『TOVE/トーベ』の主演俳優アルマ・ポウスティ(Alma Pöysti)さんです。フィンランドとライブで繋いで行われたインタビューは、「こんにちは、日本!」 というアルマさんの明るい第一声ではじまりました。「わあ、たくさんいらっしゃいますね」
以下はそのインタビューを抜粋したものです。
映画の感想はいかがですか?
── 映画に出演できて光栄でした、トーベ・ヤンソンのような偉大な人物を演じることはとても緊張しましたが。正直で可愛らしく力強いトーベを感じることができました。
撮影の秘話はありますか?
── スキーのシーンを撮る予定が雪が降らず、冬の海を泳ぐことになりました。トーベはとても泳ぐのが好きでしたが、自分は冷たい海で泳ぐのことは苦手なので大変でした。
トーベ及びフィンランドのライフスタイルについて
── 平等や人権、女性の地位の向上など当時のトーベが過ごした時代よりは良くなってきていますが、これからもよりよい公平な社会を目指していきたいです。
トーベに会ったことはありますか?
── 幼い頃からトーベにはとても憧れていましたが、祖父母(ラッセ・ポウスティとビルギッタ・ウルフソン)がトーベと友人関係にあり、夕食に招くなど家族ぐるみの付き合いがありました。5歳の時のことなのであまり覚えてはいないのですが。
トーベ・ヤンソンについて
── 自由と人権を得るために苦難の道にありましたが、自分自身に誠実であり続けたこと、またいつでもユーモアを忘れない人物だったことにとても共感します。
お気に入りのムーミンのストーリーやキャラクターは?
── 個性的なキャラクターがたくさんいて気分によって選ぶこともできますが、ムーミンの世界全体があってこそではないでしょうか。「目に見えない子」のエピソードに出てくるシャイで小さな生き物などにもそれぞれのストーリーがあるところがトーベ・ヤンソンの素晴らしさだと思います。
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音声トラブルで聞き取りにくい場面もありましたが、終始にこやかに応えるアルマさんがとても魅力的でした。その明るい笑顔と笑い声が今も印象に残っています。そのインタビューの直後に行われたVisit FinlandのInstagramライブにも出演されていますので、ぜひアーカイブをご覧になってみてください。
▶ Visit Finland Japan|Instagram
2014年に生誕100年を記念して制作された舞台でもトーベ・ヤンソンを演じられたアルマ・ポウスティさん。ポスターのヴィジュアルや映画の予告編でもまるでトーベ本人であるかのように思えるほどです。厳しい時代の中でトーベ・ヤンソンが自由を求めて懸命に生きたその姿を、ぜひ劇場で確かめてみてはいかがでしょうか。
text : harada
映画『TOVE/トーベ』
配給:クロックワークス
協力:ライツ・アンド・プランズ、ムーミンバレーパー ク
公開:2021年10月1日(金) 全国ロードショー
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