静寂の中で聞く、音楽の祝祭。JUHLA FESTIVAL 2025 テラノオト(以下、ユフラフェス)が、11月8日, 9日の二日間、今年も東京・文京区にある養源寺と光源寺というふたつのお寺で開催されました。その中心となるのは千駄木のJuhla tokyo。フィンランドやエストニア、地元の音楽家を紹介するレコードショップが併設されているCafe+Barのお店です。

開催初日の朝、Instagramのストーリーズで「会場でお会いしましょう!」とお伝えました。それは偶然見てくれた方への呼びかけであり、会場で会えるかもしれない方へのお知らせでした。2年前の記事で「出会いを繋ぐ場所」と書きましたが、今年のユフラフェスで気づいたのは1年ぶりの再会を喜ぶ場所でもあるということでした。

会場で最初にお会いできたのは、名古屋にあるフィンランドのほっこりごはんとおやつのお店kokoti cafeのKさん。「おひさしぶりです」とごあいさつしたあと、ユフラフェスのヴィジュアルデザインを担当し、運営スタッフとしても参加されているスズキカホさんをご紹介してくれました。
開催前から注目していたのが、スズキさんの似顔絵によるスタッフ紹介の投稿でした。これまでユフラフェスはどんなひとたちによってつくられているのだろうと、ずっと気になっていました。ユフラフェスの特徴はなにより、Juhla tokyoのネットワークを生かした個性的なスタッフのみなさんにあるにちがいないとおもっていたからです。
光源寺会場

大観音AURORAステージではさっそく、フィンランドのアコースティック奏者アンネ=マリ・キヴィマキ(Anne-Mari Kivimäki)さんの演奏がはじまりました。ノトカ・アコーディオンという小さなロシア製のボタン式アコーディオンを両手にひとつずつ持ち、舞台の上で舞うように、ときに地面に置いて地球に響かせるようにフィンランドのフォークミュージックを奏でます。

光源寺のもうひとつの舞台が大観音GARDENステージ。そちらではインターネットラジオTSUBAKI fmに出演されている方々のDJセットをたのしむことができました。どちらのステージ名にも「大観音」とついているように、光源寺には観音様がおさめられた観音堂があります。演奏やマルシェのにぎやかな会場で、地元のお年寄りが手をあわせていく姿がとても印象的でした。

光源寺のテラノオトマルシェでは、京都のフィンランドカフェPohjonenのえみぞうさんと再会しました。数年前のユフラフェスではじめてお会いして、その後京都のお店にもうかがいました。今回は祇園のFINLANDIA BARとご一緒に出店。FINLANDIA BARでは、アルコ・ノルディック社としてフィンランドの「KOSKENKORVA」の輸入をはじめられ、ブースにもいろいろな種類のウォッカやリキュールが並んでいました。

「KOSKENKORVA」というとカウリスマキ映画(今月4日に出演俳優のなかでいちばん好きだったエリナ・サロさんが亡くなられたばかり)が思い浮かぶくらいの知識しかなかったので、お店の方にお聞きしてみました。
フィンランド南西部にある人口2,200人ほどの村の名で、その周辺でつくられているウォッカだけが「KOSKENKORVA」と名のることができるそうです。きれいな湧き水と大麦を原材料としているのが特徴で、フィンランドでもっとも親しまれているウォッカとのこと。
養源寺会場
そして歩いて3分ほどの養源寺の会場へ向かいます。こちらにあるのが本堂を舞台としたMOONステージ。Juhla tokyoが音楽のお店というだけあり、出演者のラインナップにはいつも唸らされます。ライブ後、会場から出てきた方が興奮気味に「すごくよかった」と話されているのを耳にしました。
9日には、フィンランドからスイスタモン・サフコ(Suistamon Sähkö)が出演しました。どこかなつかしさも感じさせるエレクトリックミュージックに、アコーディオンのトラッドな調べ、そこにラップ/ポエトリーリーディングのようなボーカルが重なる個性的なグループです。それはまるで国民的叙事詩『カレワラ』の元となった伝承歌の唄い手たちが、現代にあらわれたかのよう。

養源寺のマルシェでまずお会いしたのは、ハンドメイドキャンドルWAFINのおふたり。フィンランドデザインのキャンドルや復刻したボールキャンドルも人気です。今年9月にフィンランドで開催されたデザイン・マーケットに出店されたときのお話も聞かせてもらうことができました。

そしてButtonya:BitterのKさん。ボタンのブローチや石英をつかったアクセサリーを製作されています。Kさんとは、以前Moiで開催した「たき火の会」へ参加してくれたときにお会いして、実際に作品を拝見するのははじめてのことでした。うれしい再会です。

またYuzu to TsukiのYuzuさんともお話しすることができました。Yuzu to TsukiはJuhla tokyoで焼き菓子の販売をしているお店です。小川さん(Juhla tokyo)とはYuzu to Tsukiをはじめる前からのお知り合いで、いま自分がこうしていることに驚いているとおっしゃっていました。
Yuzuさんのお話を聞きながら、ふだんそれぞれのフィールドで活躍されているスタッフや出店者のみなさんにとってもユフラフェスは再会の場所なのだとおもいました。また、小川さんがユフラフェス開催のたび新しい試みを行うことにちょっぴり困惑しつつ(笑)、それを支える方々が小川さんを信頼されていることも伝わってきました。
実際これまで訪れることができたユフラフェスの印象はいずれも異なっています。メッツァビレッジとのコラボレーションによるモリノオト、フィンランド色がとても濃かった前々回、会場がふたつになった前回(直前に風邪をひいて欠席しました)。地元や地域に根ざしながら、さまざまな境界をこえていく姿勢もユフラフェスの特徴かもしれません。
千駄木3丁目 旧銀行金庫室

そんなとき手にとったのが会場で配布されていた『SENDAGI RESEARCH BOOK』というZINE。テーマは、「よそもの」が発見した千駄木周辺の価値・魅力。ユフラフェス出店者や地元のお店へのインタビューも掲載されています。そこでZINEを片手に千駄木の町を歩いてみることにしました。

地元のひとたちが集まるお店や町のお祭りというものは「よそもの」にとっては、なかなかハードル(境界)が高いところがあります。その点、音楽をたのしむことを中心としたユフラフェスは、そのハードルをぐんと下げてくれます。後日、マルシェで知ったお店へ行ってみようかなとおもうこともきっとあるはず。

Juhla tokyoの前を通りすぎて、しばらく行くと、ふくの湯という銭湯、その向かいに家具屋さん。お肉屋さんの先、路地を右に入ると千駄木公園。学校の脇を進み、住宅街を抜けると、森鴎外記念館が見えてきました。目的地は団子坂の途中にあるサテライト会場、千駄木3丁目BANKステージです。

旧銀行の金庫室という、これまた異色なステージ。トークイベント「フィンランドへ ✈︎ バーチャル旅! presented by 北欧旅行フィンツアー」がはじまるのを待ちます。そこへ焼きたてのシナモンロールをもったMaijaさんがやってきました。Maijaさんが準備するのを見守るお客さんたちのソワソワするようすがとても微笑ましかったです。

フィンツアーによるトークは、スライド写真と動画をおりまぜながらフィンランドの魅力をたっぷり紹介するものでした。ヘルシンキ、ロヴァニエミ(サンタクロース)、ムーミンワールド、各地のサウナをMさんのガイドで巡ります。
金庫室は天井が高く、もちろん窓もないので非日常感満載。まるで蔵のような、かまくらのような、教会のような。いま自分がどこにいるのかわからなくなるような雰囲気だったので、バーチャル旅にはぴったりだったかもしれません。
トーク終了後、Mさんから「じつは暗くてほとんど原稿が読めなかったんですよ」とお聞きして、さすがは北欧旅のプロフェッショナルだと感心してしまいました。フィンランドへの旅をお考えの方は、Hyvää Matkaa!でも相談にのってもらえるそうですので、ぜひ表参道へ。
またお会いしましょう

3つの会場をぐるぐると巡りながら、見逃したものはないかとぶつぶつ呟き、いそいそとパンフレットのスタンプラリーをあつめました(景品ははずかしかったので交換できませんでした、笑)。ふと、メインビジュアルをみるとスタンプの3つの絵柄がまぎれこんでいました。

そういえばスタッフ紹介のイラストに小川さんがいなかったなぁ。とすると、このギターを弾いているのが小川さんなのだろうか? ‥‥ たぶんちがうとおもいますが、それはそれとして。こんどのユフラフェスではどんな新しい展開を繰り広げられるのか、いまから期待しています。
それでは次回、またお会いしましょう!
text + photo: harada

JUHLA FESTIVAL 2025 テラノオト
日程:
2025年11月8日(土), 9日(日)
会場:
養源寺 – 東京都文京区千駄木5-38-3
光源寺 – 東京都文京区向山2-38-22
主催:
LiL(Juhla tokyo)


