2023年10月20日から10月29日までの期間、北欧旅行フィンツアーの運営する北欧カルチャースペース Hyvää Matkaa! にて、フィンランドのデザイナーによる展示会【TAUKO – Into the Forest】が開催されました。2017年に始まったデザインとアートのフェスティバル “DESIGNART TOKYO” の一環として行われたものです。
フィンランド語で「ひとやすみ」という意味の “TAUKO”。そしてフィンランドにとって欠かせない自然である森。それらをテーマに制作されたアート作品とプロダクトが、Hyvää Matkaa! の店内を飾りました。参加したデザイナーは、Elina Aalto、Samuli Helavuo、Maija Puoskari、Inni Pärnänen、Eri Shimatsuka の5名。
今回はデザイナーたちによるトークイベントやワークショップの模様を交えながら展示会のレポートをお届けしていきます。
目次
+ Eri Shimatsuka|キノコとキツネの森から
+ Elina Aalto|おばけとヒンメリの手しごと
+ Inni Pärnänen|自然のもつ普遍的な美しさ
+ Maija Puoskari|森で見つける秋の収穫
+ Samuli Helavuo|小さなものとTAUKOな時間
Eri Shimatsuka|キノコとキツネの森から
まず最初に紹介するのは、テキスタイルデザイナーの島塚絵里さん。2007年にフィンランドへ移住した島塚さんは、ヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)でテキスタイルを学び、テクニカルデザイナーとして【マリメッコ】に勤務。独立後もデザイン、イラスト、執筆とさまざまな分野で活躍されています。
21日に行われたトークイベントは「フィンランドでの秋の楽しみ」がテーマ。カンタレッリ、ムスタシエニ、スッピロヴァハベロと、今年はキノコが大豊作。フィスカルスのキノコ名人とはポルチーニ茸もたくさん採れたそうです。「初心者は知っているキノコだけを採るといいですね。フィンランドの人たちはみんな秘密の場所をもっているみたいです」と島塚さん。
そして、昨年フィンランドで出版した絵本『Kettu ja hiljaisuus|きつねと静けさ』を紹介。物語の担当は、児童文学作家の Reetta Niemelä(レーッタ・ニエメラ)さん。「3年ほど前にフィスカルスの展示場で出会ってすぐ絵本を制作しようと意気投合しました。タイミングや出会いはとても大事ですね」と島塚さん。
Elina Aalto|おばけとヒンメリの手しごと
次に紹介するのはエリナ・アールトさん。家具やインテリア、展示設計などを手掛けるAalto+Aaltoデザイン事務所の創設者の一人です。【イッタラ】のためにデザインしたVAKKAという収納箱は、世界3大デザイン賞のひとつでもある iF Design Award で金賞を受賞しています。
エリナさんが出品したのは《Ghost Forest|おばけの森》。元々は森だったという古い採石場で見つけた色とりどりの導火線に柳の樹皮を編みこんだ作品。「単純に色がきれいだと思って拾いました。そうした身近なもので手しごとすることがおもしろかったですね」とエリナさん。
そしてエリナさんによるヒンメリづくりのワークショップも行われました。エリナさんがヒンメリを作るようになったのは、10年ほど前に【アルテック】のディスプレイを担当した時のこと。話しながらすいすいと手を動かしていくエリナさんと、通訳しながらだと少し大変そうな島塚さん。参加者のみなさんの質問にも丁寧に答えながら、和気あいあいとヒンメリづくりを楽しみました。
Inni Pärnänen|自然のもつ普遍的な美しさ
ジュエリー・デザイナーとして知られるインニ・パルナネンさんは、ラハティ応用科学大学で金細工を学び、ヘルシンキ芸術大学を卒業しました。フィンランドのジュエリー・ブランド【LUMOAVA】でデザインを手がけ、近年はそれ以外のデザインやアートの分野でも活躍されています。
「幾何学的な繰り返しのパターンに惹かれる」というインニさん。《夏》の花は、レーザーカットした薄い合板を立体的に加工し、組み合わせることで形づくっています。「まるで紫陽花のようですね」という感想に「スペインでも、マラガ島にある花に似ていると言われました」とインニさん。自然のもつ普遍的な美しさが表現されているからこそ、そうした偶然が起きるのかもしれません。
Maija Puoskari|森で見つける秋の収穫
そしてヘルシンキのカッリオでデザインスタジオを営み、照明やインテリアなどのデザインを手がけるマイヤ・プオスカリさん。《NUPPU》という子どもたちのための食器をデザインしています。「雑に扱いがちなプラスティック製品ではなく、モノを大切にする気持ちを小さな頃から育んでもらいたいという思いを込めてデザインしました」とマイヤさん。
たき火の中から取り出したばかりのような《Käpy|松ぼっくり》は陶製のオブジェ。釉薬をつけずに焼くと炎や灰の影響で、予想外の出来上がりになるとか。「釜から出してみないとわかりません。そうしたコントロールできないもの、自然に委ねることで表れる変化がおもしろい」とマイヤさん。
そして22日には《NUPPU》の器に絵付けするワークショップが行われました。たくさんのベリーのイラストはマイヤさん描き下ろし。切ったイラストを水に濡らし、ヘラを使ってしっかりと貼りつけます。親子参加の回では、子どもたちの予想外で自由な発想がおもしろく感じました。
Samuli Helavuo|小さなものとTAUKOな時間
最後に紹介するのは、アールト大学とラハティ応用科学大学で学んだサムリ・ヘラヴオさん。プロダクトデザインにおいては美しく機能的であることを大切にしているそうです。一方、自分発信の表現を探求するアート作品の制作は、サムリさんにとってメディテーションのようなものだといいます。
28日には、サムリさんと【WAFIN】の和ろうそくを製作している櫨佳佑(はぜけいすけ)さんによるトークイベントも行われました。3才になる息子と一緒に森に出かけ、小さな生き物を観察するのが楽しみであること。自然のディテールからインスピレーションをよく受けることなどを話してくれました。
そんなサムリさんの作品は《Kaarna|樹皮》と《Täplä|ドット》というろうそく台。フィンランドではかつてレンガやタイル、水道管の素材として使われていた赤土で作られています。「初めて触れる赤土という素材での作品づくりに没頭しました」とサムリさん。
今回の展示会で感じたのは、デザインとアートの世界を行き来することで相乗効果が生まれていること。デザイナーのみなさんにとってアート制作は、気持ちをリフレッシュさせたり、アイデアを発見したりするための “TAUKO” であるといえるのかもしれません。
またヘルシンキという都市で暮らしていても、普段の生活の中に森という存在があること。いつでも誰でも過ごすことのできる、特別ではないけれど特別な場所。そんな時間や場所があるからこそ、フィンランドで暮らす人たちの生み出すものにはいつだって自然が感じられるのではないでしょうか。
さて、みなさんも森の中でひとやすみしてみませんか。近所の公園や本の中に、アートやプロダクトに、友人との会話や一杯のコーヒーに、きっとあなただけの森が見つかるはずです。
text + photo : harada
TAUKO – Into the Forest
会期:2023年10月20日〜10月29日
11:00〜18:00(火曜定休)
会場:Hyvää Matkaa!
東京都渋谷区神宮前5-18-10, 1-A
・DESIGNART TOKYO
・日本フィンランドデザイン協会
・北欧旅行フィンツアー