open dialogue

“自殺希少地域”ではさまざまな工夫がある、と著者は言う。

“自殺希少地域”というのは、全国に点在する自殺者が統計的に明らかにすくない地域のことである。そうした地域では、はたしてどんな人たちがどのように暮らしているのか。精神科医である著者は、その謎を解きたくて旅をする。その記録がこの本だ。

ちなみに、著者はフィンランドで「オープンダイアローグ」について学び、トレーナーの資格を取得した人でもある。そのため、文中ちょくちょくフィンランドや北欧の話も登場する。

旅の中でわかったことは、世界には困難なことがある。それはもう、沢山ある。どんな場所でも生きるのは大変だ、ということである。それは自殺希少地域といえども変わらない。ただ、そうした現実を踏まえたうえで著者が気づいたこと、それが「自殺希少地域ではさまざまな工夫がある」ということであり、さらに、工夫のあるなしは生きやすさにつながるということである。著者は、旅の中で遭遇したさまざまなエピソードをとおしてそのことを身をもって理解してゆく。

「同じ問題や困難があったときに工夫することを知っていると知らないとでは、その困難によって受けるストレスが違う。自らの生きる世界にある多くの困難は工夫によって何とかなると思う人生なのか、努力と根性で頑張らねばならないと思う人生なのか」。

努力と根性によって、目の前に立ちはだかる困難を克服するということはたしかに素晴らしい。だが、病気にせよ身近な誰かの死にせよ、あるいはほかの何かにせよ、それだけでは克服できない局面もかならずやあるだろう。工夫がもっとも役に立つのはそのようなときだ。工夫とは、その意味で、いったん呼吸を整え、さまざまな選択肢を探ることで問題を解決するための手引きといえる。たとえ努力や根性が足りなくても大丈夫。工夫さえあれば、ひとはなんとか生きていけるものだ。この本を読むと、なんだかそんな気がしてくる。気分が楽になる。

さらに、そこで紹介される地域の人びとの生き方は、またさまざまなことをぼくらに伝えてくれる。それはたとえば、孤立を防ぐことは重要だが、孤独を畏れることはないということだったり、親友がいないと思い悩むより、たくさんの知人をつくることを考えたほうがよいということだったりする。

これでいいんだなと思ったり、ああ、こうすればいいのかと思ったり。読む前よりも確実にすっと気持ちが軽くなる、これはそういう本だ。

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text + photo : iwama