monocle

ミステリの世界に“安楽椅子探偵”と呼ばれる登場人物がいる。

安楽椅子探偵は、その見事な推理力と膨大な知識とをもって、現場に赴くことなくあたかも見てきたかのように難事件を解決へと導く。

いっぽう、この世の中には豊かな想像力と知識によって夜な夜な居ながらにして異国を自由に旅する人びともいる。

安楽椅子の旅行者、つまり“アームチェアトラベラー”といわれる人たちだ。

ぼくがまだ幼いころ、ということはつまり海外旅行がいまほどには身近でなかった時代、テレビにはこうした“アームチェアトラベラー”御用達といえるような旅番組が数多く存在した。

思い返すと、そういった番組の多くが週末の早朝や就寝前といった時間帯に放送されていた。まさに安楽椅子で旅するのにうってつけの時間というわけだ。

そして時代はすっかり変わった。

言うまでもなく、インターネットの登場はアームチェアトラベラーの旅をもまた様変わりさせる。

砂漠のまんなかでもないかぎり、グーグルストリートビューがあれば街の隅々まで思いのままに徘徊することができる。気になる店や場所があれば、SNSを通じてリアルタイムで評判を知ることさえ可能だ。

しかし、アームチェアトラベラーにとっての旅の醍醐味をかぎられた情報と自由な想像力との戯れであると心得るなら、インターネットが提供する情報のほとんどはtoo much以外のなにものでもない。

ところで、ここにモノクルが発行するガイドブックがある。

手元にあるヘルシンキ編は「Monocle City Guide」シリーズの㉟となっている。

モノクルのこのシリーズは、ガイドブックとしての必要条件を満たしていながら、かならずしも情報一辺倒ではない余白が残されているのがうれしい。

うつくしい写真やコラムを肴に、はたしてそこではどんな体験と出会えるのか想像をめぐらしてみるのはとても愉しい。

そういった愉しみを邪魔しないちょうどいい匙加減を備えているのが、この「Monocle City Guide」シリーズ最大の魅力なのだ。一冊、また一冊と少しずつ買い集めてコンプリートしたくなる。

もちろん、気になる都市があれば、よっこらしょとソファから重い腰を上げ“答え合わせ”の旅に出かけてみるのも悪くない。

monocle : https://www.instagram.com/p/CukEBRvvymH/
text + photo : iwama