Aakkosetとは、フィンランド語でアルファベットのこと ──。
Moiのスタッフがそれぞれ思いつくまま自由に選んだフィンランドのことばから、ささやかな日常の風景をお届けします。
今回のアルファベットは【P】です。
最高の日々
どこの街でも、歩いていて落書きや無雑作に貼られたポスターの類を見つけるとうれしくなってしまう。
というのも、たいがいの落書きやポスターは観光客に向けられてはいない。地元民が、おなじ地元民になにかを伝えようとして書かれたり貼られたりするのがふつうだ。だから、そういった落書きや張り紙の類はそれが他愛のないものであればあるほどその街の素顔を垣間見せてくれるように思うのだ。
以前、ヘルシンキの町はずれで壁に貼られた一枚のフライヤーを写真に収めたことがある。ニコ&タプサ(Niko ja Tapsa)なるアーティストの新譜の発売を知らせるフライヤーらしいが、はたして彼らが何者なのか、人気あるのかないのか、さっぱりわからない。ヒップホップのユニットであることも、日本に戻ってYouTubeで検索してようやく知ったくらいである。
それでも彼らの「Parhaita päivii」という曲のMVを繰り返し観ていたら、なんだかアルバムも聴いてみたくなってしまい、フィンランドに行く知人に無理を言って現地のレコードショップで買ってきてもらった。『Parhaita päiviä』というそのアルバムタイトルは「最高の日々」とでも訳すのだろうか。
フィンランド語によるラップは、日本語のそれと同じくなんとなくカクカクいう響きが親しみを感じる。ふしぎな発見だった。フィンランドの人もまた、日本語ラップを聴いてそんなふうに思ったりするのだろうか。
Parhaiten = 最高の、いちばんよい
text : iwama
郵便屋さん、おはいんなさい
普段から手紙を書くことはありますか。誰もが携帯電話を持つようになった今ではメールやメッセージなどすぐに用件を相手に伝えることができます。明日の予定も今の気持ちもどんなことでも今すぐ。手紙はといえば、便箋を用意して、ペンで書いて、封筒に入れて、切手を貼って、郵便ポストに投函して、郵便屋さんが回収して、いつ届くかそわそわして、トラックで運ばれて、郵便局で仕分けされて、相手の郵便受けに届いて、伝わっているのか不安になって、忘れた頃に返事が来て、笑。
最近、出したはずの手紙がどこかへ消えてしまいました。ひと月ほど前、確かに郵便ポストに入れたのに届いていないというのです。今の時代にそんなことがあるのだろうかととても不思議なのですが、どこでなくなったのかは全くわかりません。ポストの片隅に残っていたり、郵便局の仕分け棚の下に落ちていたり、回収の隙に鳥が咥えていってしまったり、突然の風に飛ばされてしまったり。しかもその手紙に何を書いたのかもすでに覚えていません。ということは、すっかりこの世界から消えてしまったということです。
とはいえ、その手紙には意味がなかったのでしょうか。相手に手紙を出したよと伝えたことで、その手紙の使命はもう果たされているような気もします。手紙の内容はわからなくてもどんな手紙かはおそらく伝わっているはずです。また、たとえ届いていたとしても引き出しの中にしまってしまえば、書いてあることは忘れてしまうでしょう ── もちろん読み返すことはできますが。
いつのまにか手紙の意味が大きく変わったのだと思います。いえ、もしかしたら本来の意味に戻ったのかもしれません。手紙は、連絡や内容を伝えるためではなく、想いを伝えるものに。それでも郵便受けに自分宛の手紙を見つけた時やそれを開封する時のうれしさはなんともいえません。その喜びを相手に味わってもらえなかったことはとても残念です。でも、配達の郵便屋さんが子どもたちの大縄跳びに誘われて、その手紙を落としてしまったのなら仕方ないかなぁなんて。
Posti = 郵便
text : harada