#141 過ぎ去った恋なんて

街はクリスマスの雰囲気でにぎやか。今年の秋はどこへいってしまったのでしょう。懐かしさや郷愁を感じる暇もなかったような ──

Moi!フィンランドをもっと好きになる141回目のレポートをお届けします。メニューはこちら。


映画『枯れ葉』先行上映会

最初の報告は自分から。先週の配信中にetsuroさんが紹介してくれた、アキ・カウリスマキ監督の新作『枯れ葉』の先行上映会へ行きました。主演のアルマ・ポウスティさんのトークを聴き逃してはなるまいと、たまたま残っていた一番前のA-1席を取りました。

上映後、会場から拍手が起こったので不思議だなと思っていたら、アルマさんも一緒に映画を観覧していたのでした。中央の席からスクリーンの前へと進み、アルマさんのトークショーが始まりました(フィンランド語の通訳はetsuroさん)。

「コンニチハ、アリガトウゴザイマス。日本にカウリスマキ・ファンがたくさんいることがわかりました。心から楽しんでもらえたことがうれしいです」

フランス、ドイツ、メキシコ、アメリカ、と映画で世界中をまわりながら観客の反応をスパイ(笑)しているというアルマさん。今回が初来日で、長年の夢のひとつだったという京都へも訪れたそうです。「とても美しく、人々もフレンドリーで、いろいろなものを見たり感じたりしています。ですが消化しきれていません。2ヶ月くらい滞在したいです」とアルマさん。

終始にこやかでユーモアがあり、問いかけに対してとても真摯に答えてくれるアルマさん。チャーミングで素敵だなぁと思いました(映画『TOVE』のオンラインでのインタビューでも)。etsuroさんの通訳+補足もわかりやすくすばらしかったです。

── 監督から演技に対するリクエストはありましたか?

「Don’t Act! どういう意味かはともかく監督には独自のスタイルがあり、デジタル世代の自分達にとってはファンタスティックで良い経験でした。セリフは覚えても練習はしないようにと。監督は35mmフィルムに畏敬の念を持っていて、撮影はワンテイク。『ワンテイクで撮る。ミスしたら2回目。壊滅的なら3回目も』と冗談も。1回しかチャンスがないというのはワン&オンリーで、2回目には違うものになってしまいます。生、正直、真摯でなくてはいけません。それは美しい時間で、愛すべき時間でした。またカメラにはモニターがなく、監督はその横で私たちと同じように演技を見ながら判断していました。その代わり照明や小道具も含め、絵を作る作業は細かく正確にディテールまで注意深くケアしていました。ワンテイクということもあり、誰かがミスすると全体が崩れてしまいます。撮影クルー全体に集中力があり、それらを監督が一つにまとめてくれました」

── 劇中の音楽について、お気に入りは?

「音楽はストーリーを支える要素になっています。60年代から80年代の音楽まで時間の流れが独特で、時代感を混乱させるような効果があります。ストーリーの転換点に登場する “Maustetytöt*” というグループはフィンランド語で『スパイスガールズ』! 名前からして可笑しいですが、”Depressed Spice Girls(陰鬱なスパイスガールズ)”という感じ」

*Maustetytötは、Anna Karjalainen (key) と Kaisa Karjalainen (gtr) の姉妹によるグループ。ポストパンク/ニューウェイブの影響というより、ビリー・アイリッシュ以降の世代といった感じがします。現在のところアルバムを3枚。今年出た『Maailman onnellisin kansa|Happiest Nation in the World』というタイトルからして不遜な感じが、笑。2021年にはフィンランドの音楽賞 Emma Galla も受賞。

── 映画タイトルはどのように解釈しますか?

「歌のタイトルの直訳ではありますが、言葉通りにとると『賞味期限を過ぎた』という意味かもしれません。しかし落ち葉にはまだ(地面に)落ちていくまでの時間があります。いろいろな旅をする時間。そこにはまだ希望が残されています」

── 犬のアルマとの思い出は?

「アルマという名前は運命的な偶然ですね。野良犬だったアルマを監督がポルトガルから連れてきました。才能も集中力もあって、仕事に対するモラルも。間の感覚が優れていて、リズムがわかっています。撮影クルーからも(その演技に)『お、おぉ!』っと声があがるほどでした。今回がデビュー作なのでこれからも期待が持てますね、笑」

── 劇中に流れるラジオの内容について

「この時代に映画を作るときに無視することはできないと監督はいいます、後世へ残すべき証拠にもなるだろうと。(映画に登場する)孤独なふたりのように、とても儚く、一瞬で失ってしまうこともあるかもしれません。そういった中で勇気を持つこと、愛すること、自分が変わることの大切さ、一度しかない人生を伝えるといったことでしょうか」

── 衣装などの印象的な配色について

「(演じた)アンサの赤い服には決意、希望、期待などが感じられます。彼女にはナイーブなところがあるけれど、強くなっていく、強くしていく色ですね。そしてその赤という色には監督の小津(安二郎)への敬意があるでしょう。赤いやかんを追い求めて、赤い消化器へ、笑。(ロベール・ブレッソンやジム・ジャームッシュへのオマージュほか)映画の神々への敬意、それらに手を振っているように感じられました」

── 最後に一言お願いします

「この81分間の映画を観終わったあと、世界がちょっとだけ安全に、あたたかくなったと感じてくれたならとてもうれしいです」

ハ:映画の内容は置いといて、上映後に主演のアルマさんのインタビューがありました。
ミ:インタビューでひとつ印象に残ったことを紹介するとしたらどんなことですか?
ハ:劇中のラジオのことですかね。じつは上映会の当日にカウリスマキのボックスセットが届きました。でも説明書きが何もなかったのでミホコさんがフィンランド語監修された『アキ・カウリスマキ』(エスクァイア マガジン 2003年)を図書館で借りてきて読みました。そこに監督のインタビューが載っているんですが、ずっと変わらない姿勢で映画を撮ってきたということが、アルマさんの話からよくわかりました。
イ:初期の労働者三部作もそうだけれど、カウリスマキはそうした弱者や顧みられない人たちの姿を描いてきてますよね。
ハ:あ、あと枯れ葉の季節に観に行けてよかったなと思いました。みなさんもぜひ。

2023年12月15日より全国ロードショー

枯れ葉|Fallen Leaves

監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン
配給:ユーロスペース

映画『枯れ葉』公式サイト


舘野泉「明日も晴れ!人生レシピ」

もうひとつは、NHK Eテレの番組「明日も晴れ!人生レシピ」にピアニストの舘野泉さんが出演された回を観ました。現在東京で一人暮らししている舘野さんの日常や練習風景、ピアノや妻マリアさんへの想いなどを語られていました。

印象に残ったのは、全身で演奏しているから左手だけということは特別意識していないということ。そしてなにより舘野さんが明るいこと。辛いことや悲しいことを考え方によって、楽しさやうれしさに変えていく強さに心を打たれました。谷川賢作作曲の「そのあと After That (to Maria)」やアレンジされた「赤とんぼ」の演奏もすばらしかったです。再放送があるようなので、気になる方はぜひご覧になってみてください。

▶︎ 明日も晴れ!人生レシピ(再放送2023年12月14日 12:15〜13:00)

また以前放送された番組「鬼が弾く 左手のピアニスト 舘野泉」(NHK Eテレ)も15日に。

▶︎ 鬼が弾く 左手のピアニスト 舘野泉(再放送2023年12月15日 1:15〜2:14)


梨木香歩・鹿児島睦『蛇の棲む水たまり』

次の報告はミホコさん。東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催中の【鹿児島睦 まいにち】展を観にいく下準備として『蛇の棲む水たまり』(ブルーシープ)という絵本を読みました。「鹿児島さんはフィンレイソンなどのデザインもしているのでフィンランドの話題ということでいいですよね」

こちらの絵本は、鹿児島睦さんの陶器にインスパイアされて、梨木香歩さんが言葉を紡いだファンタジー。最初に読み終えたときには「ん?」と思ったそうですが、「何回も何回も繰り返して見て、楽しめる絵本です」とミホコさん。

▶︎ 絵本『蛇の棲む水たまり』|Blue Sheep

©︎mihoko-san

ミ:プレゼントにもいいと思います、裏の金額シールが綺麗に剥がせるんです。
イ:それは気が利いていますね。ブルーシープはルート・ブリュック展のコーディネートもされていました。
ミ:普段、展覧会にはひとりで行くことが多いのですが、今回はフィンランドつながりの4人で展覧会へ行く予定なので楽しみにしています。

鹿児島睦 まいにち 展

日程:2023年10月7日〜2024年1月8日
時間:10:00〜17:00(土日祝 18時まで/入場は閉館の30分前まで)
会場:PLAY! Museum(立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟)


フィンランド独立記念日のパーティにて

12月6日はフィンランドの独立記念日|Itsenäisyyspäivä。フィンランドでは毎年、国旗掲揚、大聖堂礼拝、記念碑訪問、窓辺にキャンドルを灯す、映画『無名戦士』の放映などが行われます。

イ:大統領官邸でパーティが行われますけれど、今年注目していた方はいますか?
ミ:今年は観れませんでした。でも先頃日本をツアーしていたラヤトンが国歌をアカペラで歌っていた動画を観ました。フルサイズで歌ってくれたのがよかったです。
イ:SNSなどでもいろいろお祝いする投稿があって楽しめました。サンナ・マリン元首相やカーリヤも。
ミ:サンナ・マリンさんはウクライナ カラーのドレスで。
イ:カーリヤは「ユーロヴィジョン」で準優勝した歌手ですね。今年の顔ではあるよね、緑色の服が印象的。
ハ:さすがにパーティでは緑じゃない!という投稿も見かけました、笑。


カレワラ コルのセカンドハンド

さらにミホコさんからフィンランドのジュエリーブランド Kalevala Koru についての話。「表参道の Hyvää Matkaa! でもPOP UPをやっていましたけれど、フィンランド語講座の授業で Kalevala Koru についての文章を読む機会がありました」

「フィンランドの Kalevala Koru ではセカンドハンドのジュエリーも取り扱っています。セカンドハンドは “preloved”、フィンランド語では “pidetty” といいます。この “pitää” には『身につける』や『好き』という意味があるんです」

「こうしてブランドが新作だけでなく、リサイクルとして買い取って手入れして、再び販売するというのはいいですね。いまでは販売されていないデザインのものもありますし。お母さんやお祖母さんが身につけていたものとか、今の若者たちにもセカンドハンドのジュエリーが喜ばれてたりしているようです」

▶︎ Kalevala Pidetty

©︎mihoko-san

ミ:サンナ・マリンさんが身につけていて話題になったことがありましたね。
ハ:以前参加したワークショップでKalevalaスタッフのアイノさんが昔のデザインのブローチをつけていました。今は使われていないデザインだけれど、Kalevalaのセカンドハンドショップで見つかるかも、と。
ミ:ヘルシンキのお店からセカンドハンドのものも持ち帰ってきました。


ピヴェ・トイヴォネン『アートで楽しむサウナぎつねのフィンランド巡り』

最後の報告は岩間さん。出版されたばかりの新刊『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』(アルソス)を紹介してくれました。著者はフィンランドの水彩画家ピヴェ・トイヴォネン|Pive Toivonen。

「フィンランドのサウナを巡ったピヴェさんがイラストと文章で紹介する全編カラーの絵本(アートブック)です」と岩間さん。「主人公のピヴェさん自身はキツネ、友人など登場する人物もみんなウサギやクマといったように動物になっています。本のはじめに書いてあるんですが、サウナの風景や小物など実際にあったものしか書いていいない、つまりそこになかったものは書き加えていないそうです。ファンタジックでありながら、そういう点ではリアルでもありますね」

▶︎ アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り|アルソス

ハ:以前この本の制作協力しているアンドフィーカのIさんから12月に出版されるというお話を聞く機会がありました。400以上のサウナを巡って、61のサウナを紹介しているそうです。
イ:それほどサウナに思い入れがある方ではないけれど、とてもたのしい本ですよ。フィンランド各地のサウナのディテールや春夏秋冬、四季の季節感なども描かれていて。警察官や船員専用といった会員制のサウナとか、クリスマスの足湯も紹介されていました。
ミ:友人として登場するならどんな動物がいいですか?
イ:ヤブ犬かなあ。
ミ:ヤブ犬ってなんですか?
イ:かわいいんです。検索してみてください。
ミ:ハラダさんは?
ハ:鳥か何かでしょうか。
ミ:すぐに逃げられるようにですか、笑
イ:ミホコさんはどうですか?
ミ:クルミをほおばったリス。


── 過去や古いものに想いをはせることは後ろ向きにとらえられがちだけれど、いまここに立っている自分がこれまでどれだけ長い道を歩いてきたかを振り返ったとき、よくやってこれたなってほめてあげてもいいんじゃないかとおもう。なにかを成し遂げたとかそういうことではなく、ただここにいることを。それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみに。

text : harada

#141|Never Pine For The Old Love – Molly Drake