Bussi|Basso

Aakkosetとは、フィンランド語でアルファベットのこと ──。


Moiのスタッフがそれぞれ思いつくまま自由に選んだフィンランドのことばから、ささやかな日常の風景をお届けします。

今回のアルファベットは【B】です。


ブッシ トゥレー

「こんにちは」と声をかけてきたレーナに、「アンタだれ?」と切り返すトオル。なかなかの「無頼派」です。かと思うと、いきなり「あなたはすてきです」と歯の浮くようなセリフでこちらを慌てさせる。

そんなスリリングなふたりの会話は、バスが来た(ブッシトゥレー)ことで唐突に終わるのでした。会話らしい会話はけっきょく何ひとつなされないまま、「あ、バスが来た!さようなら」と何事もなかったかのように立ち去ってゆくトオル。サイコパスですか?

いや、さすがにこんな男、いくらなんでも現実には存在しません。これは20年以上も前、ぼくが初めて手にしたフィンランド語の教材の第1章からのひとコマ。つまり、この「ブッシトゥレー」こそは、「クカシナオレット(あなたは誰ですか?)」や「シナオレットキヴァ(あなたはすてきです)」とともにぼくが初めて記憶したいくつかのフィンランド語のフレーズのうちのひとつなのです。残念ながら、いずれのフレーズもいまだ使う場面には遭遇していませんが。

それはともかく、いつだったかヘルシンキのバスターミナルで目にした路線バスはあまりにも衝撃的でした。バス停でこんなバスが近づいてくるのを目にしたら、さすがに「すげぇバスきたーーー」と叫んでしまうかもしれません。しかし、どんな顔をして乗り込めばよいのでしょう。とりあえず舌を出し中指を突き立ててみる、とか?

よく、フィンランド人と日本人には似ている部分が多いなどと云われます。たしかに、そう思わされることも少なくありません。しかしながら、どうひっくり返っても、こんな大胆不敵な路線バスが東京や京都の街並みを走り抜けてゆくさまは想像できないですよね。

似ている部分と似ても似つかない部分とが同居する国。そのことが、ぼくにとってフィンランドをより謎めいて魅惑的な場所に感じさせてくれます。

Bussi = バス
text : iwama


好きな音楽はなんですか?

唯一の日課が音楽を聴くことなので、好きなバンドやミュージシャン、歌手や作曲家が数え切れないほどいます。そんな自分にとって「好きな音楽はなんですか?」というのがこの世で最も難しい質問です。

新しい音楽をひとつでも多く知ること、好きな音楽がまたひとつ増えていくこと、そんなことがとにかくうれしかったから、これまで飽きずに聴きつづけて来られたのだと思います。

好きなものがたくさんある方がずっとたのしい。嫌いなものを数えるよりも好きなものを数えていたい。そんな自分の基本的な考え方を教えてくれたのが、音楽です。

ええっと、bassoとは、そういう基本とか基礎といった意味のベースではなく、低音のバス、楽器のベースギターのことでした。

自分が音楽を聴く上で、一番よくわからないのがこのベースの音です。追いかけていたのに、いつのまにか見失ってしまったり。たしかに聞こえているはずなのに、なかなか音程がつかめなかったり。それでも ──

聞こえないからといって、ないことにはなりません。見えないからといって、ないことにはならないように。中心のずっと奥の方に、かならずあるもの。

それがベースです。

Basso = ベース
text : harada