フィンランドで見つけた声 〜 森下圭子さんの話

フィンランドで見つけた大切なもの
Photo by Lukas Kokkonen on Unsplash

2022年3月12日、森下圭子さんのお話会「フィンランドで見つけた対話、好奇心、おもてなし 〜 自分の声を聴くための日常と、自分の声を届けるための日常」に参加しました。主催は、東北工業大学北欧デザイン研究所です。

森下圭子さん(以下、森下さん)は、ムーミン研究家、そして映画『かもめ食堂』のアソシエイトプロデューサーと紹介されることが多いですが、近年ではオープンダイアローグに関する通訳や執筆なども行われています。

フィンランドで暮らすようになって27年という森下さんがこれまで見つめてきたフィンランドの魅力がとてもよく伝わってくるお話でした。今それぞれの場所で生きづらさのようなものを感じている人にとっても勇気づけられるものだったと思います。

そこで今回は、森下さんの言葉を残しておくことを目的に書くことにしました。


フィンランドで見つけた「対話」

今回のお話ではまず、高齢者施設の視察に森下さんが通訳として同行した際の印象に残ったエピソードをいくつか紹介してくれました。

ある認知症グループホームの小さな庭にはバス停がありました。患者さんの中にいつもバス停を探している方がいたからです。それまでの普段の生活でバスに乗って移動していた方で、バスを待つという動作をすることで落ち着かれたということです。

真夜中に起きて活動を始める患者さんがいた場合どうしますか?という質問にその施設の方はこう答えたそうです「もし起きてきたらサンドイッチを食べてもらいます、そして牛乳を出したら、寝ます」。患者さんがそれまで培ってきた1日のリズムを守ることで薬に頼らなくても落ち着いて眠れる、とのことです。

森下さんによるとこの寝る前にお腹を満たすというのはムーミンにそのまま出てくるエピソードだとか。本の中だけでなく実際のフィンランドもそんな場所だったのかと思ったそうです。

そのようにしてフィンランドでは、決まったマニュアル通りに対応するのではなく、その人にとってのいちばんいい方法を、人と人の関わりの中で紡ぎながら見つけていくということを森下さんは実感したそうです。


オープンダイアローグ

オープンダイアローグは、精神医療の現場で注目を集めている治癒の方法で「開かれた対話」と訳されます。患者と医師だけでなく、家族や友人、看護師などが一緒に対話をして、問題を共有することで患者本人の現状理解を促し、回復の手がかりにするというものです。

このオープンダイアローグで大切なことは、声がきちんと聞かれること、声がきちんと届くことだと森下さんはいいます。

「対話とは、とにかく聞くことである」

そして問題の共有とは、問題を誰かがひとつにまとめることではなく、いろんな人の目から見た時にその問題がどんなふうに見えているのかというのを改めて聞かせてもらう場所だと思っています。

ここで森下さんがひとつ、例を挙げてくれました。

普段、ある立場で話を聞く側になると、自分で何を話そうか、どう答えようかと考えてしまいます。そういったことをいったん全て忘れて、相手の言っていることをきちんと聞きたかったという話を、オープンダイアローグを体験した方からうかがったことがあるそうです。

対話とは、「まずあなたの話を聞きましょう、そして一緒に楽しみましょう」といったところから自然発生的に生まれるものであり、うまくいかなくては、とか、うまくやらなくてはいけないとか考えていると、自分の個性ではないところが表に出てしまうそうです。そこに対話の豊かさはありません。

自分は、相手ときちんと対話できているだろうかと考えさせられました。なにかを打ち明けてくれた時に、つい助言や慰めを口にしていないだろうか。相手の言葉を本当に聞けているのだろうか。そして自分が聞いていることを相手に理解してもらうにはどうしたらいいだろう。

そんな対話をつくるには何が必要なのでしょうか?

── 次回「好奇心」編に続きます。

text: harada

オープンダイアローグ実践システムと精神医療
(東京大学出版会 2022年3月28日発行)

* 森下さんは「フィンランドの風土とオープンダイアローグ」というコラムを担当されています。