テーブルの上のフィンランド

munkki

名前はとても大切。おろそかにはできない。

なぜかというと、名前とは“物語る”ものだからである。

さて、ここに一個のムンッキがある。見た目には素朴だが、とてもおいしい。

先日、早稲田にある福音ルーテル・スオミ教会の「チャーチカフェ」というイベントでつくられたものだ。

写真を見て、あれ?これってドーナツじゃね?と思ったひとも少なくないだろう。

じっさい、ムンッキとはフィンランド語でドーナツという意味である。

フィンランド風ドーナツ。わかりやすくそう言ってもいい。

どこがフィンランド風かといえば、生地に粗挽きのカルダモンが練りこまれているところだろうか。

だが、ムンッキの味わいを伝えるのにそのような説明ではあまりに不十分だ。

ムンッキという名前には、ドーナツと呼ぶことで色褪せてしまうさまざまな物語がふくまれていると思うからだ。

それは、たとえばフィンランドの家庭の台所で、お母さんが子どもにせびられて揚げているほのぼのとした情景であったり、生地に混ぜ込むときにふわっと立ち上がるカルダモンのさわやかな芳香であったり、また仕事や勉強の合間に湯気をたてるコーヒーといっしょに頬張ったときの口の中に広がる幸福な感情だったりする。

ムンッキを食べるということは、ただドーナツを食べるということではない。と、だからぼくはここに力説したいのである。

ムンッキを食べるということは、フィンランドの自然や文化をもまた舌のどこかすみっこで味わうという特別な時間なのだ。

だから、それをぼくはドーナツではなく、敬慕の念をもってムンッキと呼ぶ。

text + photo : Iwama for instagram

nuotio|takibi

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